同じ演劇作品でも、上演において異性配役という趣向を利用すると、劇自体、ドラマ自体とは異なる独特な効果が生まれる。舞台上の役者、その役者の身体が具現する人物、異性装であることを認識した観客の間の相互作用から生じる効果のメカニズムを探るのが当研究の目的だ。特に、異性配役による上演で起こりやすい「笑い」という現象と、同性による表象とは異なった魅力を持った異性配役の身体に注目して研究を進めた。 平成23年度に採択された科学研究費による研究が役者側、作品側を対象としたのに対して、当研究では観客側、受容の多様性にも焦点を当てた。研究は、観客論、演技論、身体論からファンクラブやユーモアに関する文献調査に始まり、コアとなる実地調査として、宝塚歌劇団によるミュージカル『ロミオ&ジュリエット』DVD視聴によるアンケート調査、男優のみの劇団スタジオライフによる『夏の夜の夢』上演におけるアンケート調査、蜷川幸雄演出、彩の国シェイクスピア・シリーズ『ヴェローナの二紳士』のオールメール上演におけるアンケートおよび観客インタビュー調査などを行った。また、ファンクラブの調査として、男優のみの劇団スタジオライフのファンクラブ、「クラブライフ」に加入し、イベント調査、ファンのインタビュー調査を行った。 イギリスにおける異性配役上演の上演調査のために、計3回渡英し、例えばドンマー・ウェアハウスにおけるオールフィメイルによるシェイクスピア作品上演と上演を取り巻く社会的な事象を調査した。 以上のことから、異性配役に関する観客論を実証的な方向で発展させ、上演や役者の側から「仮想される観客」像だけではなく、「実証的な観客」を把握するための糸口を見つけ、実際の上演の場で異性配役が醸し出す特異な魅力に関して有意義な考察を行ったと考える。
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