研究実績の概要 |
4年の研究期間の2年目に当たる今年度は、3月に大英図書館への海外出張を行ない研究実施計画に沿って次のような結果を残した。 イギリス・ロマン主義時代の社会の動き、海外進出の情況、出版界、世論などの流れを理解するために、Mark Parker, James Treadwellなどによる最近の重要文献を閲読した。昨年に続き、散文作家Charles Lambを軸として、友情で結ばれた作家同士の文学的共同体構築の夢とその挫折が、当時最も重要だった雑誌London Magazineに発表されたエッセイに色濃く投影されていることを具体的に確認した。今年は、1833年に単行本The Last Essays of Eliaとして出版される続篇に焦点を移し、友愛共同体から印刷共同体へと参入する発展の例として包括的な検証を行なった。 それに基づいて、作家南條竹則氏と始めたEssays of Eliaの完訳詳註版作成の作業を今年も進め、昨年度の正篇2冊に続いて、全4巻の3巻目に当たる続篇上を刊行した。翻訳を南條氏が担当し、本研究者は全体の約半分を占める註釈と巻末に付した解説「チャールズ・ラムと距離の魅惑」によって、作品生成の背後にある友愛共同体の印刷共同体の存在を意識することで読解の可能性がさらに広がることを明らかにした。それに留まらず、Lambがロンドンを媒介にしてBlakeとDickensをつなぎ、Baudelaire, Woolf, Benjaminなどその後の都市文学の系譜の源流であることを突き止めた。 昨年新たに着目したロマン主義時代の女性詩人たち、Barbauld, Smith, Robinson, Williams, Baillieなどの作品を読み進め、六人の主要なロマン主義男性作家たちとの相互関係も視野に入れて、この時代の文学状況をさらに広範囲に捉えようとした。
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