本年度は、越境する現代文学とグローバリズムにおけるテーマの一つとして遺構や文化産業遺産を巡るダーク・ツーリズムに焦点を当て、資料収集と研究成果をイギリス、オーストリア、チェコ共和国において行い、多角的視点からの考察を行うことができた。特に、現代社会における世界遺産が持つ意味が多様となり、歴史の再考察と文化や文学の再評価が必要となったことが重要であり、それが過去から現代に至る文学作品の再評価に大きな役割を果たす点を発見した。このダーク・ツーリズムと越境する文学あるいは周辺化された文学との関連性は、第二次世界大戦から冷戦時代、9.11、さらには3.11に至るまで共有されるだけでなく、宗教や文明の原点に至る時点にまでさかのぼり、さらには近代の西洋帝国主義と大航海時代の負の遺産にまで当てはまるものである。 また、イギリスのシェフィールド大学で開催された英国日本学学会においては、ドイツとカナダの研究者から招聘を受けてフォーラムを組むことができたことは名誉なことであった。翻訳によって母語圏外で評価されつつあるアジア圏文学、特に現代日本文学に関しては、広い視野で海外の研究動向を知る必要があり、今回は学会参加へ向けてのメイルでの話し合いや確認などの過程において有意義であった。 さらに、4年間に渡る研究成果を、最後の年に単著『記憶と共生するボーダレス文学―9.11プレリュードから3.11プロローグ』として出版できたことは大きな実績となった。研究期間の後半、2018年9月から2019年3月の間は在外研究期間となり、ランカスター大学に国際客員研究員として招かれ、同大学図書館、マンチェスター大学図書館、オックスフォード大学図書館、ロンドンの大英図書館、ヴィクトリア・アルバート美術館貴重図書館などにおける資料取集だけでなく、セミナーや講演会に参加することで、今年度の研究に関するまとめを行った。
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