研究課題/領域番号 |
26370306
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
一谷 智子 西南学院大学, 文学部, 教授 (70466647)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 核批評 / 核文学 / 原爆 / カナダ先住民 / オーストラリア先住民 / 環境正義 / エコクリティシズム / 環境文学 |
研究実績の概要 |
本研究は、英語圏と日本の核表象を横断的に考察し、西欧の核文学と、日本の原爆文学というジャンルを接続発展させた核批評の構築を目的としている。 当該年は、ウラン採掘や核実験の影響を受けた北米やオーストラリアの先住民が経験した核被害を描いた作品の分析を進めた。特に中心に分析を進めた作品は、カナダのDene-Metisの劇作家であるMarie Clementsの劇作_Burning Vision_(2003)とオーストラリアのPitjantjatjara部族のTrevor Jamiesonの劇作_Ngaprtji Ngapartji_(2006)である。_Burning Vision_は、第二次世界大戦前にカナダのPort Radium鉱山で採掘されたウランが、広島と長崎に投下された原子爆弾に使われた史実を描きながら、先住民コミュニティのみならず、米国のラジウムぺインターの女性、採掘に携わった鉱夫、さらには日本の被爆者の経験した被害を重層的かつ包括的に表現している。_Ngaprtji Ngapartji_においては、1950年代のオーストラリアのマラリンガやエミューで行われたイギリスの核実験を先住民の視点から描き出したものとなっているが、本作も先住民の被害に留まらず、実験にかかわった白人兵やヒロシマの被爆者を作中に登場させながら、グローバルな核の被害のサイクルを描き出す。 当該年は、核のサイクルと植民地主義の共犯性を明らかにしながら、先住民の視点から描かれた作品がその土地や自然と結びついた価値観による核批評をどのように構築しつつ、地球的な視点で核の問題を表象しているかを明らかにした。アメリカ先住民の核表象の考察は多い一方で、カナダとオーストラリアの先住民による核表象の研究は少ない。こうした劇作の意匠とそこに表れた環境正義を比較検証した点に意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
過去2年は、英語圏の文学への考察が中心となってきた。当該年は、その研究の成果としてアメリカの国際学会での発表を行い、国内の書籍(論文集)の一章文分にもまとめた。しかし、この書籍の出版の予定が、編集者の都合により遅れたため、当該年の出版自体は叶わなかった。 本来なら、当該年に日本の核表象への分析にとりかかる必要があったが、本テーマによる別の小説の翻訳の仕事が長引いたため、ある一部の研究計画に若干の遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果を8月の国際学会と11月の国内の学会で発表し、さらに論文としてまとめて出版する。また、オーストラリアの核実験やウラン採掘の問題を日本のヒロシマから捉え辿るオーストラリアのドキュメンタリーの作製にも関わっている。監督や出演者へのインタビューやメイキングの過程を追い、本研究の一環として、論考にまとめる予定である。小説や戯曲などのジャンルを超えて、現在進行形の映像作製、特にドキュメンタリーの核表象についても分析を深め、英語圏と日本に関わるグローバルな核表象の広がりと最新状況を考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況に若干の遅れがみられるため。出版を予定していた論集の出版が遅れ、負担金の支払いが次年度になることや、ドキュメンタリー映画の撮影が遅れたこと、調査のために海外渡航が叶わなかったことが具体的な理由として挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
論集の印刷負担金、調査のための渡航費、ドキュメンタリー映画の撮影協力費として使用する。
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