研究課題/領域番号 |
26370312
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山本 卓 金沢大学, 学校教育系, 教授 (10293325)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 太平洋 / R. L. Stevenson / Charles Nordhoff / James Hall / 地方性 / 植民地主義 |
研究実績の概要 |
平成26年度は太平洋地域に居住し、そこから西洋に向けて物語を発信した英語圏作家について研究を進めた。まず着手したのはR. L. Stevensonで、サンフランシスコからハワイ諸島を経てサモアに到達した過程で記述した紀行文、サモアにおける生活を叙述した書簡やエッセイを中心に据え、それらにおける作家の認識と当時の太平洋世界のイメージとの偏差を同定する一方で、彼が書いた南海物語群が提示する太平洋表象との相同性と差異を探った。とりわけ中編小説「ファレサアの浜」は出版にいたる経緯において、イギリスの編集者が持つ太平洋像とStevensonのそれとがせめぎ合った作品として解釈でき、周縁としての位置付けと地方としての認識の相克の具体的な事例として浮上した。 20世紀の太平洋表象についてはCharles NordhoffとJames HallのBounty号三部作を開始点として、関連文学作品の読解および関連映像作品の分析を行った。ベストセラーとなったThe Bounty Trilogyにおける太平洋像はStevensonの南海作品に比較すると、伝統的な言説の再表象の色合いが濃い。その一方で、西洋が規定してきた太平洋世界にたいするアンチテーゼも提起しており、西洋の周縁という太平洋についての認識を覆す試みも見られる。本研究のテーマである「地方」としての太平洋表象を考えるとき、NordhoffとHallが提示する太平洋像は、その解釈を読み手に委ねてしまうのである。その点では、今後の太平洋作家による太平洋像との比較検証が大きな意味を持つことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画段階においては、Stevenson、Nordhoff and Hall、20世紀の太平洋を舞台とした映像作品、文化人類学やツーリズムを取り巻く歴史状況を研究範囲としていた。前者の3点については期待通りの成果があった。研究初年度の目的の一つに挙げた海外での資料収集に関してはハワイ大学マノア校に1週間強の滞在をすることで、19世紀末から20世紀にかけての文学作品と歴史資料を発掘できた。 しかしながら、NordhoffとHallが残した作品の多さ、Bounty関連文献の多様性のため、それらの検証に時間を費やし、歴史概念の分析に着手したばかりの段階である。また、同様の理由により、Stevensonを含めた検証の成果を発表するまでには至っていないため、上記の自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は前年度に着手した19世紀末から現代に至るまでの大衆の太平洋イメージの変遷を、文学以外の資料から探る一方で、研究計画の通り太平洋島嶼作家の作品の読解を行う。太平洋諸国の独立と高等教育の普及によって、1960年代頃に登場した島嶼作家は、彼らの人種的な要因や文化的な異質性、さらには歴史的経緯による植民地主義への呪縛ため、前年度に検証した作家たちとは対照的な位置にあると容易に予想される。その一方で、西洋が作り上げた太平洋像を否定するだけでは、最終的には自己否定に陥る危険性を多分に孕むため、自己の存在を肯定する言説を構築する必要がある。そうした作家たちの模索を、周縁としての太平洋から地方としての太平洋の変化と捉え、個々の作家のアプローチの差異と、Stevensonなどの先行作家との距離を同定するのが、本年度の研究の方向性となる。扱う作家としては、Epeli Hau'ofa、Albert Wendt、Sia Figielを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画では資料整理のための人件費を予定していたが、申請者自身がそれを行ったためその分が差額として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
差額は次年度の人件費および物品費に充てる。
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