研究課題/領域番号 |
26370312
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山本 卓 金沢大学, 学校教育系, 教授 (10293325)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 太平洋 / R. L. Stevenson / Charles Nordhoff / James Hall / 地方性 / 植民地主義 |
研究実績の概要 |
本年度は太平洋文学作品の読解をとおして、島嶼作家における地方の意義を探ると同時に、太平洋からの情報発信者としてのR. L. Stevenson 、およびNordhoff 、J. N. Hallの位置も確かめた。島嶼作家として、太平洋文学第1世代のサモア人作家Albert Wendt、第2世代にあたるSia Figielを取り上げ、とりわけWendtとStevensonとの関係性に注目した。Wendtの初期の作品において半ば神格化されていたStevensonは、2003年に書かれた長編小説The Mango's Kissでは、無邪気な植民地主義者という非難すべき対象として描かれる。また、Sia Figielの作品中で語られるStevensonもけっして好意的なものといいがたい。これらの作品の読解によって、20世紀から21世紀にかけての太平洋作品によるStevenson像の転換への試みが、本研究のテーマである中心と地方(周縁)の力学に非常に大きな関わりを持つ可能性があることを確認した。 さらに40年間にわたるWendtの作品を年代順に辿ってみると、そこには作家の地方性へのまなざしの変化も看取できる。植民地主義に批判的でありながらも、その代替的な主体の位置を見いだせないでいる初期の作品から、西洋を批判すると同時にその視座自体を地方化しようとする2000年代の物語への変容が存在するのである。また、WendtとStevensonを並置することで、NordhoffとHallの作品群は、植民地主義が終焉を迎えつつも依然として島嶼民族の声が不在のままである状況に、すっぽりと入り込んだようなものであり、それは19世紀初頭に存在しているはずの物語(The Bounty Trilogy)の語り手が、しばしば20世紀的な視座から語るという不合理な語りに象徴されることも確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度はCharles NordhoffとJames Hallの読解作業に多少の遅滞があったが、今年度初頭から読解を進め、Wendtの作品群にまで至ることができた。前年度にハワイ大学において収集した資料も、これらの作家の読解に非常に有益であった。また、前年度の成果を10月の日本英文学会中部支部大会、11月に日本コンラッド協会年次大会においてそれぞれ口頭発表した。 その一方で、当初計画していたSia Figielの作品読解の進捗状況は予定よりも少し遅れている。Stevensonへの言及がある彼女の作品とその関連資料は読了したものの、現代サモア人作家の方向性を同定するには至っていない。とりわけAlbert WendtとFigielとの表象様式の相同性と差異については、さらに検証が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、過去2年の研究で確認した現代太平洋島嶼文学作品における地方性のあり方を、同時代のマオリ作家の作品と比較することで、より広範囲な太平洋地域の枠の中で相対化するとともに、本研究の成果を論文にまとめる。 サモアなどの島嶼地域と比べると、ニュージーランドにおける先住民族の西洋との関わりは大きく異なる。ヨーロッパ人に土地を収奪された歴史を持つマオリ民族は、島嶼民族よりも西洋性をはるかに強く意識しなければならなかった。そうした意識は文学作品における内容や語り手のまなざしに色濃く表れている。具体的には、現代の代表的なマオリ作家であるWiti IhimaeraやPatricia Graceの作品の読解を通して、マオリ文学が提示する民族アイデンティティのあり方の変遷と戦略を検証する。この検証によって島嶼作家の物語が示す地方性を相対化する。また、21世紀以降ニュージーランド(とりわけオークランド)は太平洋文学の中心地としての役割を担っており、マオリ作家と島嶼作家の交流も活発である。特にWendtとIhimaeraはオークランド大学で同僚関係にあったことから、彼らの直接的、間接的な影響関係の可能性も研究の視野に入れて、太平洋島嶼文学の地方性を同定する。 こうした作業を踏まえ、これまでの研究成果と併せてStevensonとWendtを読解対象とした「太平洋の地方性」についての論文を執筆・投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料収集と資料提供のために計上した謝金は、前者は申請者自らが行ったため、後者は予定していた国内出張が先方の都合で叶わなかったため、使用実績が0となった。物品費への振り替えを考えたものの、年度末の時点で適当な図書が見つからず結果的に残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
資料収集のための出張を早期に実現し、また論文の英文校閲料として、謝金を活用する予定である。
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