研究課題/領域番号 |
26370312
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山本 卓 金沢大学, 学校教育系, 教授 (10293325)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 英語圏文学 / R. L. Stevenson / 太平洋表象 / 島嶼文学 / マオリ文学 |
研究実績の概要 |
平成28年度はマオリ作家を含めた広義の太平洋作家を研究の対象とした。前年度までにAlbert WendtやSia Figielといった現代太平洋作家とR. L. Stevenson などの西洋人作家による太平洋表象の検証はおおむね終了しているため、新たな視点として太平洋民族でありながらも島嶼民族の範疇に入らないマオリ作家の作品を検証した。中心的に読解した作品はWiti Ihimaera によるものであるが、女性作家としてPatricia Graceの初期作品も研究対象に含めた。マオリの物語群から確認したのは、西洋に対するオセアニア的な主体と歴史背景の相関性である。西洋からの植民者による土地の簒奪が民族の歴史上の大きな事件となっており、それゆえ作品のテーマにも選ばれやすいマオリ作品においては、西洋との対立が土地の争奪と重なり合うだけでなく、現代の西洋とマオリを巡る政治性もまきこみ、最終的には民族の主体の問題としてしばしば顕在化する。その一方で、Albert Wendtなどの島嶼作家が問題化する地方性は、家族や村といった比較的規模の小さい集団から生じる個人の自己の位置づけを重視してきた。近年のWendtの作品がサモア人の個人のアイデンティティから距離を置き、サモア民族の世界観を問い直そうとしてきていることは、汎オセアニア的な大きな地方性の物語への合流とも解釈できる。 本年度の成果としてはStevensonとWendtのポリネシア人表象の差異を足がかりに、作家としての自己像の構築方法を検証した論文、「現地の情報発信者としてのR. L. スティーヴンスン:『ファレサアの浜』と19世紀末の太平洋」を発表した。しかしながら、時間的な制約のため本課題の総括までには到達せず、延長申請によって平成29年度にも研究を継続することになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マオリ文学作品の読解に想定以上の時間を要したことが遅延の主な原因である。また、マオリの歴史についてはマオリ文学と密接な関係があるマオリ抵抗運動の調査に時間を費やし、島嶼地域の歴史との比較検証が計画通りには進展しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
マオリ文学と島嶼地域文学とのより詳細な比較検証を行い、西洋に対するそれぞれの主体のあり方の精度を高める予定である。また、本年度秋期に開催される国内学会のシンポジウムのパネリストが内定しており、そこで成果の一部を発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果発表の渡航費として確保していた予算であったが、研究の遅延により成果発表ができず残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
最終段階において必要な資料も出てきたため、余剰金は資料収集か成果発表の渡航費に充当する。
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