研究課題/領域番号 |
26370317
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡辺 克昭 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (10182908)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 死 / ヒューマン・エンハンスメント / アメリカ的想像力 / アポリア / 幸福 / 楽園 / 生命のデザイン / デリーロ |
研究実績の概要 |
本年度は共時的観点から本テーマのヴィジョンを多様なメディア表象の分析を通じて抽出するとともに、アトウッドの最近の三部作を主たる手掛かりとして、1)遺伝子操作等など生命のデザイン、2)薬物など精神のデザイン、3)人口知能など頭脳のデザイン、4)人体改造など身体のデザインの4つの問題系を考察した。これらと並行して、生殖技術が家族のあり方を根本的に変化させることを積極的に受容すべきだとを主張する推進派と規制派の文献を学際的に検証することにより、本研究のさらなる充実を図った。 本年度の出版活動としては、本研究の基礎作業として大阪大学出版会より、『楽園に死す-アメリカ的想像力と〈死〉のアポリア』(546頁)を上梓した。本書は、「ヒューマン・エンハンスメントの進化」を考察するにあたって、その根幹をなす〈死〉をめぐる眼差しを検証することが不可欠との認識より執筆された。本研究では、ベロー、バース、パワーズ、エリクソン、デリーロといった現代アメリカ作家に焦点を絞り、彼らが楽園に埋もれた〈死〉のアポリアとどのように向き合い、いかなるテクストを紡いできたか、アメリカ的想像力のしなやかな応答を浮き彫りにした。常に既に死さえも克服したかに見える「楽園アメリカ」にあって、自らの〈死〉を生きることも、語ることもできない表象不可能な〈死〉のアポリアを、作家たちはいかに創造に活かしてきたのか。本書は、「郵便空間」としてのアメリカを浮き彫りにすることにより、アメリカ的想像力が、経験されざる経験としての〈死〉が滞留する時間の袋小路に逢着してはじめて、楽園の神話の呪縛を解かれ、無限に開かれたエクリチュールを育む生成のエッジへと変貌を遂げることを明らかにした。以上の知見は、アメリカ作家がヒューマン・エンハンスメントの進化による「幸福の追求」を脱構築しようとする際、基盤となるマトリクスを形成している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ当初の計画通り、年次計画を遂行することができ、現時点において、計画は概ね達成されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はその目標を達成するために、毎年度、先行研究の整理と分析の枠組みの検討を行いつつ、次の4つの大きな柱を設定し、研究活動を実施する。1)予め設定した時代区分におけるヒューマン・エンハンスメントの進化に関する各種メディアの表象分析。2)各時期に出版もしくは舞台設定されたフィクションが描くヒューマン・エンハンスメントの進化に関する比較分析。3)メディア、デザイン、視覚アート、映像など、特定の表象媒体に焦点を絞り、共時的観点よりヒューマン・エンハンスメントの進化の相関性を考察。4) 図書館、資料館、博物館、美術館等における関係資料の発掘、収集。 なお、年度毎に上記の領域における進捗状況を的確に把握し、研究が計画通りに進まないときは、分析対象とする作家、メディアをさらに絞り込むなど、適宜柔軟に組み替えを行い、研究期間中に必ず一定の成果が得られるよう調整をはかる。
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