研究課題/領域番号 |
26370323
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研究機関 | 福岡女子大学 |
研究代表者 |
向井 剛(向井毅) 福岡女子大学, 文学研究科, 教授 (40136627)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 狐物語 / 書誌学 / 書物文化史 / 受容史 / キャクストン / ド・ウォード / ピンソン / イギリス:オランダ:フランス:ドイツ:アメリカ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、中世後期から18世紀にかけて広くヨーロッパに流布し、様々なジャンルで受容された<狐物語群>のうち、1.中世オランダ語から翻訳・受容された英語『狐物語』(Reynard the Fox)の本文生成と派生のプロセスを解明し、ステマを確定すること、2.各印刷・編集者による本文と書物のつくりを社会・文化的文脈に位置づけ、受容史の観点から解釈することである。 本年度は、パラテクスト(版型、段組み、標題と標題紙の有無、序文、目次、要約、挿絵など)とテクスト(語彙、文法、語句の加除修正など)をめぐって、ピンソン初版(1494)をその底本であるキャクストン初版(1481)とを比較し、詳細なる異同の記述資料を作成し、ピンソン版に特徴的な本文の崩れ、特に、時制、語順、綴りの特異性を見出した。加えて、ピンソン第2版(1506)をキャクストン初版、ピンソン初版と校合し、異同の詳細なリストを作成した。結果、想定とは異なり、ピンソン第2版は自身の1494年版の本文に拠らず、キャクストン第2版(1489)或いは現存しないド・ウォード版(1500?)から派生していることを明らかにできた。この調査に際して、所蔵先のエディンバラ国立図書館にて現地調査を行った。 印刷者ピンソンがいかなる動機で本作品を選び、かつ初版と第2版の編集方針を変えたのか。こうした背景を探るために、ピンソンの伝記的側面、出版した書籍の種類についても基礎的調査を行った。 本年度は、各版の本文校合を中心に基礎調査を行ったことから、口頭での発表を除き、成果を論文の形で問うまでには至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の作業として大きく2つの課題を掲げた。1つは、パラテクストとテクストをめぐって、ピンソン初版とキャクストン初版とを比較・校合することにより、異同の記述資料を作成し、ピンソン版に特徴的な本文の崩れ、特に、時制、語順、綴りの特異性を明らかにすること。2つに、ピンソン第2版を先行する諸版(キャクストン初版、ピンソン初版、キャクストン第2版)と校合し、詳細な異同リストを作成し、これら緒版の本文派生(ステマ)を作り上げることである。 上述のとおり、本年度はこうした作業を滞りなく行い、これら異同リストの分析から、1.従来の説とは異なりピンソンは再版を編集するに当たり、自身の初版を斥け、キャクストン第2版の流れを汲む本文を編集したことが判明した。また、ピンソン初版は、母語話者とは思えない英語語法(実際、彼はフランス人であり、長じてイングランドに渡り印刷業を営んでいた。)を含んでいることも明らかに出来た。こうした成果は研究協力者の貢献が大きかった。このような本文の特異性を、ピンソンの属人的なものとするのか、或いは印刷工房(植字工を含む)の問題とするのか、今後さらに吟味する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2年目として、第一に現存オランダ語『狐ライナルト物語』(ゴーダ文書館蔵)とピンソン第2版の本文及び本のつくり(make-up)を比較した上で底本を確定、第二にBlake提唱のステマをベル版(1650年)にまで広げて派生図の展開を行う。そのために、昨年度に実施したゴーダ版テクストの現地調査結果を吟味・解釈し、両版の比較を行いながら、1年目に得た「本文異同のリスト」を参照しながら、ピンソン第2版の底本確定とステマへの位置づけを行う。 続いて、ド・ウォード版(1525)、ゴルティエ版(1550)、"Anonymous Edition"(1550-85)、アルデ版(1586, 1620)、オールトン版(1640)、ベル版(1650)の調査を、必要に応じて所蔵先図書館を訪問しつつ、研究協力者(大学院博士課程学生)と分担して実施し、初期印刷本期における『狐物語』の本文派生及び木版画の継承関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
品目別収支状況に、111円の次年度繰越金が生じた。この小額で研究遂行に必要な物品を購入することが不可能であった。
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次年度使用額の使用計画 |
111円を研究2年目(平成27年度)の「その他の品目」に繰り入れ、消耗品を購入する予定である。
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