研究課題/領域番号 |
26370329
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
権田 建二 成蹊大学, 文学部, 准教授 (00407602)
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研究分担者 |
生駒 久美 大東文化大学, 文学部, 講師 (00715063)
堀 智弘 弘前大学, 人文学部, 講師 (10634719)
杉本 裕代 東京都市大学, その他部局等, 講師 (20581797)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / 人種 / 階級 / 白人性 |
研究実績の概要 |
研究計画の初年度である昨年度は、理論的整備のための報告会で意見交換をすると同時に、研究者各自が資料の調査・収集を行った。 4月27日に行った第一回の研究会において今年度の研究会において扱う貧乏白人関連の理論書を選定し、研究者各自の研究対象および研究実施計画を報告しあった。 9月20日に行った第二回の報告会においては、貧乏白人の文化表象を歴史的に検討するため、今日われわれがイメージする貧乏白人の源泉を知る上で最も適したと思われる歴史的一次資料を講読した。研究分担者生駒久美が、南北戦争以前の南部ジョージア、アラバマ周辺地域に住む貧乏白人の当時の生活を明らかにする歴史的一次資料である、Charles C. Bolton and Scott P. Culclasure, eds., The Confessions of Edward Isham: A Poor White Life of the Old South (University of Georgia Press, 1998) に関する報告を行った。そののち、参加者全員で、貧乏白人Edward Isham の手記に見られる、貧乏白人に関する人種・階級・移動性・暴力の問題について討議をおこなった。 また、この研究会の後もメール等により意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究者各自が、個別に資料収集にあたり、それぞれの分担箇所について研究を進めた。 研究代表者権田建二は、アースキン・コールドウェルやウィリアム・フォークナーといった作家たちの1920, 30年代の作品における貧乏白人の表象と、同時代の人種概念、人種関係、優生学、労働観との関連を論じていくために、一次・二次資料の調査・収集に努めた。また、貧乏白人研究にとって必要不可欠な「人種関係」という視点を豊かなものにするために、元奴隷のフレデリック・ダグラスの思想について調査し、それについて研究成果をまとめた。 研究分担者生駒久美は、昨年度は、貧乏白人に関する歴史的資料や社会学の文献を読み進めた。その結果、貧乏白人は、黒人やネイティブ・アメリカンと生活条件が変わらないため、「白人特権」を脅かす存在であったことを確認し、アメリカにおける人種問題が、いかに階級問題と密接に関わっていたのかを考察した。 研究分担者堀智弘は、貧乏白人やアイルランド系移民に関する一次資料や研究文献を多数購入し、また、2015年2月にワシントンD.C.の議会図書館で貧乏白人研究に関連する資料について調査を行うなどし、研究環境を整備した。 研究分担者杉本裕代は、アメリカ大恐慌を起点として、1950年代までを中心にアメリカ社会の産業構造の変化に関する調査を行った。これにより、フラナリー・オコナー作品における住所不定のセールスマンや孤児の存在を、読み直す作業を試みた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も、昨年度と引き続き、理論的整備のための理論書の報告会を開催する。と同時に、各研究者による研究成果の経過報告および、外部講師を招いてたの研究会を開催する予定である。 権田建二は、1920, 30年代の優生学や人種概念に関する言説の調査・収集にあたり、それらの言説と同時代の作家たちの作品との関係を探る。1920, 30年代の優生学や人種概念が、いかに「白人」という概念の内部に差異化を生み出してきたのかを明らかにすることを目指す。 生駒久美は、貧乏白人に関する歴史学、経済史、社会学などの文献を参考にしながら、白人作家による貧乏白人の表象や、社会改革問題への取り組み方に対して、チェスナットがどのような批評を加えていったのかを考察していくことを目指す。 堀智弘は、すでに集めた分担箇所に関する一次・二次資料の分類・整理にある。今後は特に1830年代から南北戦争期あたりまでのアイルランド系移民に注目し、社会的には同じ被差別的な地位にあった黒人奴隷と彼らがどのように差別化されるようになったのかという歴史的過程について、同時代の奴隷物語や関連する研究文献の読解を通して詳細に検証していく。 杉本裕代は、アメリカ社会の産業構造と精神との結びつきを考えながら、オコナー作品に登場する聖書のセールスマンを歴史的文脈と共に考察することで作品中における彼の役割が、これまでとかく寓話的に解釈されるにとどまっていたところを、社会的弱者でありながらアメリカ社会の精神を体現する人物としてオコナー独特のヒーローとして解釈することができると考察した。この議論を、フラナリー・オコナー協会の学会誌(5月末〆切)に投稿予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の予算があまり消化されていないのは、次年度への海外出張旅費にあてるためである。学内の資金による海外出張を優先させたため、それ以上出張をすることが難しい状況にあり、本課題のための海外出張は平成27年度に持ち越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
上記にあるように、今年度は、海外に資料調査に行く予定であるので、予算の大部分はこのための旅費にあてることになる。研究分担者もそれぞれ調査のための海外出張を次年度に予定している。 また平成26年度は、研究代表者・分担者による研究会を主に行ってきたが、平成27年度より、外部講師を招聘しての研究会を積極的に開催していく予定である。
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