近世初頭において文化的後進国であった英国は、イタリアルネッサンスの大きな影響を受けて、その文化を開花させた。その過程において、出版の果たした役割は極めて大きい。本研究は、応募者のこれまでの研究をふまえて、1558年から1642年に英国で出版された全ての‘Italian Books’ にかかわった印刷業者・出版業者の活動の全容を実証的に明らかにすることを目的としている。それにより、彼らと英国の文人や知識階級、及び、劇作家の関わりを検証し、英文学や英国演劇にどのような影響を与えたかを明らかにしたいと考えている。 平成28年度は、1558年~1642年までの該当期間のうち、主として1609年以降に活躍した出版業者に焦点を当て、それらの書籍の資料収集を行った。その調査のため1回の海外出張を行い、概ね順調な成果を挙げることが出来た。 しかし、研究調査対象が‘Italian Books’以外の書籍を含むため、資料は膨大であり、各書籍についての詳細な検討にはまだまだ膨大な労力と時間が必要であることも明らかになってきた。本研究においては、まず研究範囲の書籍に関する資料を正確に蒐集整理することが、肝要であると考える。正確なデータベースを作成することが、本研究の第一義的目的であるからである。それにより、各印刷業者の活動の中で‘Italian books’の出版が、エリザベス朝ルネサンスという、英国だけでなく世界文学史上まれにみる文化の興隆に貢献した意義を明らかにしたいと考えている。 平成28年度は、研究の成果を盛り込んだ講演を行い、エリザベス朝の人々の旺盛な異文化吸収意欲やその国民性について説明した。
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