平成28年度は、「越境するマイノリティ表象とヴィジュアル・アートの可能性」をテーマとして研究を行った。特に、2011年に上演されたモリスンの戯曲でシェイクスピアの『オセロ』(1602)の翻案と言われている『デズデモーナ』に焦点を当て、モリスンが文学を越えた舞台で視覚的に訴えるテーマについて研究を行った。その際に、平成27年10月にカリフォルニア大学ロサンゼルス校で観劇する機会を得たモリスンの戯曲『デズデモーナ』の舞台を踏まえて、モリスンが試みる活字を越えたヴィジュアル・アートの可能性について検証した。 平成28年6月18日には、中京大学名古屋キャンパスで開催された日本アメリカ文学会中部支部の例会で、「越境するトニ・モリスンの『デズデモーナ』」という演題で研究発表を行い、質疑応答ではモリスン研究者との貴重な意見交換の時間を持つことができた。この研究発表の原稿に修正を施した論文「トニ・モリスンの 『デズデモーナ』 を通して考える人種言説」(『明治学院大学国際学研究』50号、平成29年3月、151-162頁)を執筆した。さらに、平成26年5月に開催された日本英文学会のシンポジウムで発表した論文「アメリカン・ロマンスとトニ・モリスン―『白さと想像力』と『ジャズ』を中心に」をもとに執筆した論文「「闇」が語るもの -『白さと想像力』と『ジャズ』を中心に」が『新たなるトニ・モリスン- その小説世界を拓く』(金星堂、2017年3月)に収録された。本書は、トニ・モリスンの全作品を扱った日本で初めての研究書であり、風呂本惇子氏、松本昇氏、鵜殿えりか氏とともに編集委員会のメンバーとして編集の作業に当たった。編集委員として他の研究者の論文にも触れる中で、モリスンの多文化時代の越境するアメリカ文学・文化の広がりを究めることができた。
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