研究課題最終年度にあたる平成29年度は、成果発表と研究総括の年であった。これに先立つ3年間、本研究では、「自警暴力」や「私的権力行使」が文学や文化作品にどう記録されてきたかを検証し、表象や思想に解釈を与えることを目標としてきた。研究対象にはアメリカ合衆国と日本の文学作品および映像作品が含まれていたが、それらのいくつかは比較という方法から特定の主題的関連性のもとに検討された。より具体的には、以下2つの比較論として結実した。まず、英国バースで行われた武術研究国際専門家会議において、武術の暴力誘発性に対する感受性が高い年代と低い年代の映像表象を日米比較論として口頭発表した。次に、日本フォークナー協会年次大会シンポジウムにおいてWilliam Faulkner と森鴎外を取り上げて、「正義」の暴力として表象される行為を産む精神的な背景と、それに対する作家たちの関心の相似性を、物語の時間性への着目を通して考察した。 加えて個別作品研究としては、アメリカ南北戦争を教える際、文学作品の示す多様な水準の暴力への感受性を教材化することの意義を示す論考ととともに、Henry Jamesと第一次世界大戦の関わり方を主題とする論考を出版した。さらに、昨年よりテーマの中核とされているアメリカにおけるマイノリティ市民への自警暴力についても、それがこの5年あまりいかに社会問題化されてきたかについてまとめるエッセイを発表した。 本研究は、今年度でひとまず終了するが、学術界・日常世界の両方において永らく根強い共感を集め、いきおい批判の困難であった「自衛」概念の問題性を問い続ける必要性はなお一層増していると感じられる。自衛という概念は、おそらく最も手近に、そして政治的に合理化された暴力の根拠を形成している。それに対する先進的な懐疑や批判を具体的作品に求め、論じる作業を、今後さらに続けていきたい。
|