研究課題/領域番号 |
26370340
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
澤田 敬司 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50247269)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ナショナリズム / 戦争の記憶 / 多文化社会 / 先住民 / 移民 / 演劇 / オーストラリア |
研究実績の概要 |
当該年度は、多文化社会を反映した演劇作品の中で、アラン・シーモア作『年に一度のあの日』とトム・ライト作『ブラック・ディッガーズ』を取り上げ、実践をともなう様々な角度からの調査・分析を行った。2015年は、第一次世界大戦でANZAC軍(オーストラリア・ニュージーランド連合軍団)がトルコのガリポリ半島に上陸して100年という節目の年である。かつてはアングロ系白人によって独占されていたANZAC神話も、今日オーストラリアの多文化社会を反映し、アングロ系以外の様々な民族出身のANZAC兵の存在が、研究やメディアを通して掘り起こされるようになった。『年に一度のあの日』は1960年代に書かれた作品で、元軍人として国に奉仕した誇りを持つ主人公と、それを否定的に見つめる大学生の息子との間の価値観の衝突を描いている。主人公は移民に対する反感を露わにするなど、オーストアリアのナショナリズムと多文化主義との関わりについても言及されている。オーストラリア演劇の古典となったこの作品を、日本語に翻訳しリーディング上演を行った上で、シンポジウムを通して掬い上げた観客の反応を分析する作業を行った。 また『ブラック・ディッガーズ』は、これまでナショナルな神話の中から除外されてきた先住民のANZAC兵に焦点をあて、新しいANNZAC神話のナラティブとして、その年にもっとも注目されたオーストラリア演劇となった。この作品のもつ、戦争の記憶への介入という先住民の戦略について、フィールドワークと分析を行い、また『年に一度のあの日』との比較研究によって、ナショナル・アイデンティティと今日の多文化状況がどのように関わりを持つのかを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の特色である戯曲の翻訳作品の上演の都合により、対象作品の差し替えはある。しかし、上演プロジェクトを通して、日本の観客の反応をまじえて再考し、多文化、ナショナリズム、グローバリズムという三つのテーマについて、新しい知見を獲得できている。 また当該年度は、その成果を、国内・国外に向けて発表し、さらに議論を高める場を十分に持つことが出来た。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も、オーストラリア演劇の中の多文化主義とグローバリズムについて、戯曲の翻訳上演プロジェクトと連動しながら、計画を進めていく。特に、2016年度にはオーストラリアの移民難民と差別の問題を扱った古典であるアレックス・ブーゾ『ノームとアーメッド』を日本初演することになっており、観客の意見を取材し議論を高める場も複数もうけることを計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ごく少額ではあるが、端数として、使用出来ない金額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
少額であるため、次年度に文房具などの物品を購入する際に、使用する。
|