研究課題/領域番号 |
26370340
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
澤田 敬司 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50247269)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オーストラリア / 演劇 / グローバリズム / 移民 / サステナビリティ / 多文化 |
研究実績の概要 |
①オーストラリアの多文化社会の影の部分を鋭くえぐり取り、今日まで再演が繰り返され「古典」化したアレックス・ブーゾ作『ノームとアーメッド』(1968年オーストラリア初演)を、調布市の公営劇場であるせんがわ劇場と連携し、日本初の上演、シンポジウム、レクチャーを含む一連のイベントを行った。それらを通して登壇者、参加者からのリアクションを取材し、今日のグローバリズムの翳りと日本を含め世界中で起きている不寛容で排他的な状況において、半世紀前のオーストラリア戯曲をどうのように読み直すことができるかを検証する重要な一次資料を得ることができた。 ②オーストラリアへの研究出張により、グローバリゼーションの進展する中での多文化を表象する現代演劇の多数の上演について、フィールドワークを行った。特に、2010年の初演以来その重要性により頻繁に再演を重ねているアボリジニ演劇『コランダーク』については、テクストの成立史を含めて豊富な資料を収集できた。またハニー・レイソン作『絶滅』上演についてのフィールドワークを通して、現代オーストラリア演劇における重要なテーマとして浮上しつつある「サステナビリティ」と作品との関わりについての資料を収集・分析した。 ③オーストラリアの多文化社会を構成する日系オーストラリア人を主題にしたマユ・カナモリ作『ヤスキチ・ムラカミ』について、作家、上演プロデューサーにインタビューを行った。また戯曲の日本語訳を行い、来年度以降の日本での上演+シンポジウムのための下準備を進めた。 ④グローバリズムと多文化を反映したオーストラリアの舞台芸術の例としてオペラを取り上げ、その歴史と現在について調査し、成果を出版物として公表した。 ⑤来年度における単行本出版による研究成果の発表に向けて、その準備作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
グローバリズムと多文化状況を示すオーストラリア現代演劇について、特に海外出張によって現地フィールドワークを行ったことによって、資料の収集は順調に進んでいる。 一方、『ノームとアーメッド』上演プロジェクトによる成果は大変大きく、社会情勢が作品のアクチュアリティを大きく高めたこともあり、プロジェクトに関わった人々からの豊富な証言を収集することができた。また、研究計画を超えて進展したのが、日系オーストラリア人のプレゼンスを巡る演劇に関するプロジェクトで、予期せずオーストラリアの制作者たちの全面的協力を得ることができた。この結果、同プロジェクトの準備を進めることができ、今後の日本での上演も含めた総合的なフィールドワークにつながる可能性が強くなった。 さらに、研究成果を公表する機会にも恵まれ、出版物を通してすでに蓄積した研究内容を公開することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のまとめの年度に入り、収集した資料の分析を進め、公開できるものは公開していく。単行本として、オーストラリア現代演劇の特に今世紀以降のクロスカルチュラルな状況を記録・分析した著書、さらに多文化状況の中でも先住民の演劇に特化して調査分析した研究書の刊行を目指す。 2016年度の研究で特に重点を置いた『ノームとアーメッド』上演プロジェクトについての調査についてさらに分析を進め、論考を執筆、公開する。特に本プロジェクトの内容は日本国内のみならずオーストラリアや世界でもインパクトを持つと考えられるので、日英両言語での成果発表を目指す。 2016年度に端緒がついた日系オーストラリア人の演劇メディアを通した表象についての研究を進めるため、日本語での上演プロジェクトを推進し、同時にオーストラリア現代演劇におけるアジア人表象、オーストラリア多文化社会における日本人のプレゼンスについての資料の収集も行う。
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