研究課題/領域番号 |
26370341
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研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
戸田 由紀子 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (40367636)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マドレン・ティエン / カナダ文学 / ラリッサ・ライ / ニール・ビスーンダス / 多文化主義 / ヒロミ・ゴトー / 植民地主義 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「多文化主義」政策が現代カナダ西海岸文学に与えた影響を踏まえながら、現代カナダ西海岸の非白人(ビジブル・マイノリティおよび先住民)文学における「人種主義」と「植民地主義」に抵抗する物語手法および言語行為を明らかにすることにある。27年度は、NielBissoondathのSelling Illusions: The Cult of Multiculturalism in Canada (1994)やSunera ThobaniのExalted Subjects: Studies in the Making of Race and Nation in Canadaを始めとしたこれまでの「多文化主義」の議論をレビューした上で、カナダ人作家Madeleine Thienの小説における「人種主義」と「植民地主義」に抵抗するレトリックを考察した。研究成果は2015年4月26日に名城大学名駅サテライトで開催された日本アメリカ文学会中部支部大会にて発表。また、研究成果は、「『我々』と『彼ら』は存在しない――マドレン・ティエンの『境界線の犬』における『他者』」、と題して『カナダ文学』23号に掲載。2015年6月24日には、カナダ作家のラリッサ・ライとヒロミ・ゴトーを本務校に招聘し、「歴史、神話、フォークロア」と題した国際シンポジウムを開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度に予定していたカナダから作家を招聘し、国際シンポジウムを開催し、有意義な意見交換ができた。また、多文化主義の論争のレビューした上で、マレーシア系カナダ人作家マドレン・ティエンの作品における「人種主義」と「植民地主義」に抵抗する言語行為と物語手法を明らかにした。ティエンの『境界線の犬』は、自己主張型の従来の移民物語ではなく、他者理解および他者への「共感」の物語であることを指摘し、それによって、ビスーンダスの指摘するマイノリティ文学の陥る「ゲットー化」や、ロイ・ミキの指摘する大きな物語へマイノリティの物語が取り込まれてしまうという問題を回避することが可能となることを論証した。予定通り研究成果を論文として発表することができた。当初予定していたイーデン・ロビンソンの作品研究は次年度に行うことになったのを除けば、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である28年度は、カナダ西海岸の先住民ハイスラ作家イーデン・ロビンソンの小説において植民地の歴史とその記憶がどのように刻まれているかを考察する。その後、植民地主義や人種主義の歴史が現代白人作家側からはどのような実験的手法で描かれているかを、メリディス・クゥオーターメインの『バンクーバー・ウォーキング』とダフニー・マーラットの『ステーヴストン』を中心に検証する予定である。その上で、前年度まで行ってきたビジブル・マイノリティの文学の考察と比較し、誰が誰を表象するのかというオーセンティシティの問題も含めて分析する。本研究の最終年度に当たる当該年度は、これまでの研究成果も踏まえ、比較考察することで、現代カナダ西海岸文学における「多文化主義」、「人種主義」、「植民地主義」のポリティクスを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定していたイーデン・ロビンソンの作品研を次年度に回したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
イーデン・ロビンソン、メレディス・クゥオーターメイン、ダフニー・マーラットの作品研究に関連する書籍購入費、研究調査費、成果発表費に使用する。
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