ナディーム・アズラムの『盲目の男の庭』についてACLALS(イギリス連邦言語文学会)の大会(2016年7月、南アフリカ共和国ステレンボッシュ大学)にて発表した。9.11同時多発テロ、アフガニスタン戦争という歴史的文脈において、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンが「例外状態」と呼ぶような状況に置かれた人々(そして動物)を記述し、共感の可能性を探っているように見られる。マックス・シェーラー的な共感や「一体感」の諸形態を提示しているのは興味深い。現時点では、この原稿を加筆・修正して投稿準備をしている最中である。
また、2016年3月に発表した『叶えられぬ祈り』論を大幅に加筆・改稿し、投稿した。そのトラウマ表象に映画のモンタージュ理論の文学への転用、モダニズム文学の手法やイメージ使用が見られる。これには二つの原因が考えられる。まず、現代において、英語文学におけるトラウマ表象がモダニズム文学の影響を避け得ないことから、そういった作品の手法・戦略を換骨奪胎したのだと考えられる。これに加え、パキスタン出身の知識人の特殊性も理由に挙げられる。ウルドゥー語文学には、サアダット・ハサン・マントの作品に見られるように、そもそもモダニズムを独自に解釈したコスモポリタンな傾向があった。これに加え、1970年代後半以降、知識人の多くがジア=ウル=ハク政権以降のイスラーム化政策への反発を抱き、ディアスポラを加速させた。その影響下で育った世代の作家には「土着」傾向が希薄だとも言えよう。なお、加筆・修正にあたって、『叶えられぬ祈り』をアティク・ラヒミの『忍従の石』と比較した論考へと大幅に改稿している。
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