研究成果発表として、日本ナサニエル・ホーソーン協会全国大会にて「海洋国家アメリカの文学的想像力―海軍ディスクールとアンテベラムの作家たち」というテーマでシンポジウムのコーディネートと発表を行った。各登壇者が専門とする作家と海軍との関わり、作家活動に与えた海軍言説などを検討したが、他の作家との比較によって、ホーソーンの海軍言説の捉え方、ペリーとホーソーンに共有された言説の特徴などが明確になり、アンテベラムの作家と海軍の関係性を包括的、多角的に論じる視座を得ることができた。 調査では、ホーソーンの生誕地セイラムと姉妹都市である大田区郷土博物館にてホーソーンに関する資料、下田の開国博物館、霊仙寺、長楽寺、ハリス記念館(玉泉寺)および横浜開港資料館にて、ペリー提督と開国に関連する資料を収集、閲覧した。また仙台市博物館では、ペリーが小笠原を日本の領土とする根拠とした仙台藩林子平による『三国通覧図説』のフランス語版の資料、1860年に日米修好通条約の批准で派遣された仙台藩玉蟲左大夫の資料を閲覧した。仙台市博物館では2013年に世界記憶遺産に登録された17世紀の慶長遣欧使節に関連する資料等も閲覧し、開国期のアメリカとの接触に先立って、仙台では西洋への視点が開かれていたことが確認できた。一方、近年、小笠原の欧米系住民の子孫の方々と19世紀に小笠原で遭難して救助された陸前高田の漁師の子孫の方々との交流が始まっている。歴史の表舞台であまり論じられてこなかった地域や民間レベルで生じた日米交流の原点への注目が、19世紀のアメリカの文化言説と日本開国との関係性を考察する本研究の新たな視点となるのではないかという示唆を得た。
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