研究課題/領域番号 |
26370347
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
大貫 隆史 関西学院大学, 商学部, 教授 (40404800)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ナショナリズム / 場所 / 感情構造 / レイモンド・ウィリアムズ |
研究実績の概要 |
昨年度までに、2016年刊行の単著を含む形で成果を公表してきたが、本年度はとくに、Raymond Williamsのキー概念とも言える「感情構造」との関わりについて研究を進めた。ある社会形式の中で人間が生きるときに、そこでの実際的意識(practical consciousness)において、人間は、所与の社会形式に対する既存の解釈とのあいだで、何らかの「緊張感」を生じさせることになる。その緊張感についてウィリアムズは具体的に「不安、圧力、転移、潜在」といった形を取ることが多いと言っている。そして、そうした「不安、圧力、転移、潜在」は、既存の社会編成への何らかの反応や反発としか言いようのないものなのだが、同時に、「溶解」して目に見えなくなっているものでもある。この「溶解」してしまっている、既存の社会編成へ(良かれ悪しかれ何らかの)変化を求める願望に、具体的なかたちを与えるのが広義の「アート(arts)」であり、そこに新しい感情構造が形成されている、という主張がWilliamsにはある(_Marxism and Literature_)。 本研究課題との関連で言えば、書き手(writer)とコミュニティの関係について、上記の感情構造の議論を当てはめることが有益である。本研究課題の分析では、Williamsがその死後刊行小説_People of the Black Mountains_において行っているのは、コミュニティの人びとと分離してしまった「書き手」という現代的な社会形式への反応や反発に、かたちを与える作業である。つまり、「書き手」が連続性を持っているのは、作品中に描かれる、本研究が「身体を持った観察者たち」と呼ぶ、コミュニティの中の人びとなのである。この新しい感情構造と、「場所にまつわる紐帯」との関連について考察を深めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題を進める上で設定した四つの軸のうちのひとつである「社会科学におけるナショナリズム論の批判的分析」について、その考察対象とすべき論考が本年度当初に想定したものより多いことが分かり、分析に時間を要してしまったため。
|
今後の研究の推進方策 |
上記の理由に基づき補助事業期間の延長を申請し認められたため、翌年度(平成30年度)に、「社会科学におけるナショナリズム論の批判的分析」を進め、分析作業を継続し、口頭報告あるいは論文などでの成果公表を目指すこととする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
課題遂行上の四軸のうちのひとつである「社会科学におけるナショナリズム論の批判的分析」について、対象となる論文が年度当初の想定より多いことが判明し、当該文献の入手に関わる経費、その分析について成果公表を行うための経費等が未使用となったため。平成30年度は引き続き、「社会科学におけるナショナリズム論の批判的分析」を行うため、関連文献の調査・収集費用、成果公表を行うための旅費等に充てることとする。
|