本年度は、当該研究の集大成として、前年に『エコクリティシズム・レビュー』No.9に所収された論文に大幅な加筆修正を加えた論文「ナサニエル・ホーソーンはポストヒューマンの夢を見るか」を、2017年6月に刊行された『エコクリティシズムの波を越えて―人新世の地球を生きる』(音羽書房鶴見書店)に掲載した。内容はナサニエル・ホーソーンの短編をプロト・サイエンス・フィクションとして再解釈した試論であり、作品内に内包されたポスト・ヒューマン的存在―「人間と機械のキメラ」としての「ヒューマン・マシーン」、テクノロジーによる人工美女の創造、人間支配の「現代世界のエデン」でしか生存できない私生児的「怪物」―をテーマ化し、ロマンス的想像力によって創出された創造物が、「現実的なもの」と「想像的なもの」が混在するホーソーンの「中間領域」の概念と密接に関係することを指摘した。また、同時代の作家であるメルヴィルやポーの作品中に登場する自動機械としてのオートマトンとホーソーンの機械論の極致という感情までも有したオートマトンとの違いに着目し、精神と肉体の心身二元論の再癒着を促す後者の現代性について言及している。その他に、メディア・テクノロジーの進展に伴うスペクタクルな文化装置が人間の意識に及ぼす影響を論じたヘンリー・ジェイムズの作品論「文化装置による意識の変容―ジェイムズの『使者たち』における幸福の行方」が『アメリカ文学における幸福の追求とその行方』(金星堂、2018年2月)に所収された。また、ユダヤ聖歌とジャズの共振性を論じた論文「「聖」と「俗」が奏でる音楽の相克と親和性-映画『ジャズ・シンガー』(1927)」を『ユダヤ系文学における聖と俗』(彩流社、2017年10月)にて発表した。
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