研究課題/領域番号 |
26370350
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研究機関 | 西九州大学 |
研究代表者 |
渡邉 真理子 西九州大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (70389394)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | サバイバル / アメリカ / 戦争 / ディザスター |
研究実績の概要 |
26年度は「サバイバル」に焦点を合わせ以下の課題に取り組んだ。初年度補助金は、研究活動において使用するノート型PCの購入や書籍や文献の購入、洋書の迅速な入手のための電子書籍端末の購入とともに、研究会開催にかかわる貸会議室使用、国内外での実地調査・学会発表・学術企画参加のための旅費に当てた。 1) 戦争とサバイバル ①ティム・オブライエンとヴェトナム:「サバイバル文学研究会」において、26年度後半よりオブライエンのヴェトナム戦争小説群を読んでいる。②ウィリアム・フォークナーと第一次世界大戦:ポスト冷戦期という時代を相対化するために、20世紀初頭の戦争小説の例としてフォークナーの『兵士の報酬』『土にまみれた旗』を中心に第一次世界大戦に描かれたサバイバルの形を分析した。また、その成果を日本ウィリアム・フォークナー協会大会シンポジウム「フォークナーと戦争」において発表するとともに機関誌『フォークナー』に寄稿した。③核の表象:日米の詩・小説・映画に加え、2015年8月にニューヨークで上演された演劇『アトミック』など、トランス・パシフィックな核の文化表象に関する調査を行った。この成果の一部を「日米文化における核の表象について」という題で一般市民向け公開講座において発表した。 2)ロード・ナラティヴとラテンアメリカ表象 マイノリティ主体におけるサバイバルという視点から、冷戦末期の80年代小説における南米移民の表象と彼らを取り巻くディザスターについて考察し、その成果が『アメリカ研究』49号に論文として掲載された。また、ロード・ナラティヴをキーワードに80年代小説における移動とサバイバルの諸相を検討した。この成果である論文「クロスロード・トラフィック―一九八〇年代アメリカ小説から読むロードの物語学」は、論集『アメリカン・ロードの物語学』に収められることが決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、<サバイバルと戦争>を考察する作業の一環としてポスト9.11の文学思潮を踏まえた上で20世紀初期へと遡り、ウィリアム・フォークナーの第一次世界大戦小説群(『兵士の報酬』『土にまみれた旗』など)について日本ウィリアム・フォークナー協会第17回全国大会シンポジウム「フォークナーと戦争」で口頭発表を行った。この口頭発表を元にした論文「サバイバルと戦後」を同学会機関誌『フォークナー』17号に掲載することができた。 また、伝統的に白人主体の「抵抗」のジャンルとされてきたロード・ノヴェルを再検討し、アメリカ先住民や南米移民の合衆国での「生」をめぐる闘争をも射程に入れた論考「クロスロード・トラフィック―一九八〇年代アメリカ小説から読むロードの物語学」を『アメリカン・ロードの物語学』(金星堂、2015年)に掲載することが確定している。さらに『アメリカ研究』49号「特集:モンロー・ドクトリン再考」に寄稿した論文「ラテンアメリカの影―1980年代小説と半球思考」では、上記のサバイバルの源流に存在するモンロー・ドクトリンの遺産としての<半球思考>に着目した考察を行った。ポスト冷戦期という時代を理解するにあたって、このように冷戦期の終わりに位置づけられる80年代の文学について総括する作業を行うことができたのは極めて有益であった。
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今後の研究の推進方策 |
27年度はまず、<戦争におけるサバイバルの諸相>として、①「ティム・オブライエンとヴェトナム戦争」②「ポスト9.11小説に描かれた生の形」の二つの項目を中心に研究を継続していく予定である。特に項目①の進捗状況については「サバイバル文学研究会」にて継続的な報告を行い、同時に項目②との比較考察も適宜試みる。計画としては27年度で全ての作品の分析にあたり、余裕があれば関連する研究書の読解にも進むつもりである。 また、<ポスト冷戦期の災害表象>の例としてカレン・テイ・ヤマシタの『熱帯雨林の彼方へ』をグローバル時代のディザスター・ナラティヴとして読み解くとともに、そのマジカル・リアリズムというラテンアメリカを起源の一つとする文学モードの考察と合わせて、研究成果を国内外に発表できればと考えている。 <日米文化における核表象>については前年度に行った調査および口頭発表をベースに、その成果を活字化することを目標としたい。 上記の各テーマの総合的理解に必要な文学史および文学批評分野に関する考察は、これまで通り「冷戦読書会」を研究の場として活用させていただき、専門家の方々との意見交換を続けていければと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
「人件費・謝金」の中に英語論文校閲費用を計上していたが、今年度は校閲が必要となる機会がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は国外の媒体に英語論文を発表する予定であり、その英文校閲費用として繰越使用する計画である。
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