研究課題/領域番号 |
26370354
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
塩塚 秀一郎 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (70333581)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プロジェクト / コンセプチュアル・アート / 失敗 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「プロジェクトに依拠して日常のあり方を探る」作品群の考察を通じて、日常の可視化にプロジェクトが果たす役割を明らかにするとともに、そのような仕方で可視化された日常の姿とともに、これらの企てがもちうる社会批判の射程を測ることである。今年度は主に以下の作品を分析した。1.ダンロップとコルタサールの『宇宙道路の高速飛行士』(1983)、2.ジャック・レダ『パリの子午線』(1997)、3.ソフィ・カルの『ゴッサム・ハンドブック』(1998)、4.河原温のデイト・ペインティング。1は、一ヶ月間、パリ・マルセイユ間の高速道路から出ないで暮らした記録であり、2はヴァーチャルなものである子午線を可視化したメダルをたどる道行きの記録である。これらの分析から明らかになったことは、プロジェクトの意義は計画が破綻なく成功したときではなく、自ら定めたはずのルールが破綻したときあるいは危機に瀕したときにあらわれる、という事実である。たとえば、あるパーキングエリアにおいて、コルタサルはルールを破って高速道路の外部に出ることを夢想している。このとき、プロジェクトは危機に瀕しているとも言えるが、これをきっかけとして、コルタサルはホモ・ルーデンスとしての人間の本質について思索し、我々の日常を縛っている暗黙の約束事について考察し始めるのだ。美術史家のトニー・ゴドフリーは、コンセプチュアル・アートの本質のひとつとして、挫折を直視しそれと折り合いをつけることを挙げている。また、現代のプロジェクト・アートに大きな影響を及ぼしたジョルジュ・ペレックは「計画やプログラムの特質は決して守られないということ」であると述べている。今後は、コンセプチュアル・アートの本質としての「失敗・挫折」と、プロジェクトがもたらす「開示」との関係を、具体的作品を通じてより具体的に考察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請段階で対象と想定していた作品については順調に調査が進んでいる。平成26年度は、『宇宙道路の高速飛行士』、『パリの子午線』など、文学者によるプロジェクト・ワークを主に分析の対象としたが、その過程で河原温やロマン・オパルカなどによるコンセプチュアル・アートの実践についても視野に入れておく必要性を感じ、現在、彼らに関する研究文献を読み進んでいるところである。また、プロジェクトの実行と、その〈作品〉への昇華というテーマについては、ジョルジュ・ペレックによる『場所』のプロジェクトと、それの『人生 使用法』との関わりについて考察すべきであろうと考えている。これらの課題については、平成27年度中のフォローアップを目指したい。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、『宇宙道路の高速飛行士』、『パリの子午線』をより精密に分析するとともに、河原温、ロマン・オパルカによるデイト・ペインティングの射程について検討を進めるとともに、ペレックによる『場所』の企てとその失敗がもつ意味について論考をまとめておきたい。
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