本研究の中心課題のひとつである書誌作成、つまりステファヌ・マラルメが出版した約20冊の本に関して詳細な書誌を完成させ、その献本先等の情報についても確認し得るかぎり調べ、データベース化を行った。このデータベースと拙著『ステファヌ・マラルメの書斎』という二つの基礎資料によって、著作のやり取りという具体的な相互関係から、マラルメを中心に形成された文芸ネットワークの姿を想像し再考することが可能となった。書簡からは未だ確認できていない交友関係も見出せ、これまでほぼ出席者の証言からのみ描き出されてきた「火曜会」もより実像に近いかたちでイメージできると思われる。詩人による刊本の書誌情報については関西マラルメ研究会アルシーヴ << Mall'archives >> にて公開する予定である。また、マラルメ記念館に保管されている当時の新聞・雑誌の切抜きを、時間の関係もありひとつひとつ精査することは叶わなかったが、大まかに確認した。やはり貴重な一次資料であり、Argus を介してマラルメが収集したこれら切抜きの調査は今後も継続していきたいと考えている。 本年度は論文「レオン・ヴァニエとマラルメ」を執筆(掲載誌の都合で未刊)。本論は19世紀後半の出版界とマラルメの関係という大きな枠組みのうち、『半獣神の午後』再刊と『ポー詩集』出版をひき受けたヴァニエ書店を中心に詩人の造本意識を考察したものである。これら2冊は他の出版社からも刊行されており、実物の比較だけでなく、『半獣神の午後』出版契約案の草稿も勘案して分析を行った。今後、ブリュッセルのドマン社ほかマラルメの本を出した出版社について幾つか論文を仕上げる予定だが、本論によってその全体の見通しを得ることができた。
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