研究課題/領域番号 |
26370358
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
小栗栖 等 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60283941)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 『ロランの歌』 / パリ写本 / リヨン写本 / ケンブリッジ写本 / 電子校訂 / 電子テキスト / テキスト校訂 |
研究実績の概要 |
フランス語で書かれた最古の文学作品の一つである『ロランの歌』は、複数の写本によって現在まで伝わっている。本研究ではそのうち、三写本の校訂を行う(それぞれ、フランス国立図書館、ケンブリッジ大学トリニティカレッジ図書館、リヨン市立図書館に保管されている)。 ここでいう校訂とは、人の手で書き写された本(写本)を印刷本の形に仕立て直す作業のことを言う。とはいえ、それは、手書きの文字を活字に置き換えるというような単純なものではない。中世の写本は独特の書体をもって書かれており、様々な略号が用いられているため、それ自体、解読には熟練を要するが、さらに、羊皮紙に手で書き写された写本は、時に損傷し、時に頁が脱落しているだけでなく、そこには、多数の書き間違えも存在する。とはいえ、古い時代の言葉についての我々の知識は、限られた数の写本に基づくものである以上、その書き間違えや脱落箇所を修正するのは、大変困難な作業となる。 本研究で校訂対象となる、三つの写本は共通の祖本から生じたと考えられ、互いに補い合う関係にある。この一つ一つを校訂し、互いのテクストを突き合わせることで、ここの写本の中では、不明だった箇所が明らかになる。それは、長い時代の中で変化してきた『ロランの歌』の、一つの時代の姿をかいま見る絶好の機会をもたらす。 他方、それぞれの写本は異なった時代に、異なった地域で書き写されたため、それぞれが異なった言語的特徴を有する。これらを個別に検討することは、当時のフランス語の多様性を知るための重要な手がかりともなる。本研究は、三つの写本のテクストを個別に電子テキスト化し、上記二つの観点から、それぞれの詩行を詳細に見比べることができるようにすることを目的とする。また、最終的には、前回の研究課題で作成したオックスフォード本の電子テキストとの統合を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、リヨン写本のテキスト電子化は、終了した。次年度は、予定通り、パリ写本の電子化に着手する。 上記の校訂作業は、ほとんどがコンピュータ上で進められる。そこで、作業の効率化を目指すために、様々な電子ツールを作成し、活用している。昨年度には、次のソフトウェアを手直しして、使い勝手を向上させた。これらのソフトウェアは、すべて小栗栖のサイトで無料公開されており、世界中の研究者から使用の報告を受けている。 1) 写本を電子テキストと行単位で見比べるためのソフト、Oliphan、2)電子テキストを電子索引化し、効率的に語彙検索を行うためのソフト、Halteclere、3)電子辞書閲覧ソフトHalteclereとDurendal。 また、各種電子辞書の作成も行った。中でも、重要なのは、Tobler & Lommatschnの市販電子辞書の大幅改作とRomanisches Etymologisches Woerterbuchの電子化である。前者は著作権の関係上公開できないが、後者は今年度中に公開する。 なお、本研究の課題は『ロランの歌』のPTL三写本の校訂であるが、これは、前回の研究課題「『ロランの歌』データベースの構築と電子校訂法の確立」(2009年4月1日~2013年3月31日:研究課題番号:21520331)の延長線上にある(両者は、実は切り離せない)。その成果の一部である「De nouveau sur le texte du Roland d'Oxford」がロマンス語研究界で、最も権威ある雑誌の一つ、Zeitschrift fur romanische Philologie誌に掲載されたことを最後に付け加えておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は予定通り、パリ写本の校訂作業を行う。この写本はリヨン写本の倍以上の分量のテクストを擁しているため、校訂作業は、次年度内では終了しないと思われる(当初から、一年半ほどの作業期間を予定している)。 校訂作業は、多数の文献を常に机上において参照せねばならず、本を選び、目当ての頁を見つけるという行為に費やされる時間は膨大なものとなる。すでに辞書に関しては、電子辞書ソフトと電子辞書の作成により、検索時間を大幅に圧縮することに成功した。現在は、多様な参考文献の渉猟を手早くかつ正確に行うためのソフトをウェアの開発、および参考文献の電子化を進めている。こうした作業自体に時間がかかるため、パリ写本の校訂が予定より早く進むということはあり得ないが、最後に残されたケンブリッジ写本については、上記の準備作業が大きな利益をもたらすだろうと予想される。 なお、タイムスケジュールに影響を与える要素が二つある。一つは、昨年に新しく『ロランの歌』の刊行本が上梓されたことと、オックスフォード本の研究に関する論文執筆である。前者は、シャトルー市図書館の写本を対象とするものであり、本研究の対象写本とは異なるが、同じ『ロランの歌』の写本である以上、当然詳細な文献研究の対象となり、必要によっては書評を公表する必要がある。他方、オックスフォード本は、以前の研究課題の対象であるが、PTL三写本の研究は新たな知見をもたらし、当然、かつての研究内容の見直しを迫りもするのである。 以上の理由から、パリ写本の校訂作業が多少遅れる可能性はあるが、大幅な遅滞が生じるとは考えられず、研究計画で見込んだ予備時間で十分にまかなうことができると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
洋書の購入の際に、為替変動を見込み、若干多めに予算を見込んだのと、コピー代金が予定よりも小額だったため。
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次年度使用額の使用計画 |
洋書購入の際の為替変動や、コピーに必要な代金の予想は必ずしも簡単ではないが、次年度予算の使用計画のなかで、繰り越し金の適切な使用を心がける。
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