研究課題/領域番号 |
26370358
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
小栗栖 等 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60283941)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 『ロランの歌』 / パリ写本 / 『ロマンス語文献学誌』 / シャトールー写本 / リヨン写本 / テクスト校訂 |
研究実績の概要 |
2015年度は計画通り、『ロランの歌』のリヨン写本とパリ写本の校訂作業を進めたが、かなりの時間をMajori Moffat氏のThe Chateauroux version of the Chanson de Roland, A fully annotated critical text (Beiheft zur zeitschrit fur romanische philologie, De Gruyter, 2014)の検討に割いた。これは『ロランの歌』のシャトールー写本の、初の本格的な校訂本である。この写本は研究計画の三つの校訂写本には含まれないが、いずれは『ロランの歌』データーベースに収録されるべき写本であること、また、当該校訂本が計画対象の三写本の校訂作業に裨益することを鑑み、校訂テクストを検討する必要があった。そのため、既存のトランスクリプション(書写)版、Joseph DugganのThe Song of Roland, The Chatearoux version (Brepols, 2005)、Raoul MortierのThe texts de la Chanson de Roland, La version de Chaeauroux (Geste Francor, 1943)を参考にする一方で、写本画像そのものも利用して、詳細にMoffat氏の校訂テクストの妥当性を批判的に検証した。そして、その成果をA4版22ページにわたるフランス語書評としてまとめ、ロマンス語学の一流誌、Zeitschrift fur romanisches philologie (De Gruyter)に投稿、掲載が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度の研究計画で予定した「パリ写本」の校訂作業を一通り終えた。ただし、上記に記した通り、「シャトールー写本」の校訂本の検討ならび書評執筆に研究時間を大幅に割いたため、校訂テクストは、まだ、荒削りの状態である。今後かなりの手直しが必要になるだろう。校訂テクストの写本の校合、Annalee C. Rejhon, The of Roland, The Paris Version (Brepols, 2005)、Raoul Mortier, Les Textes de la Chanson de Roland, la version de Paris (Geste Francor, 1943)などの既存の校訂本との比較検討などには、まだまだ不十分なところもある。また、Tobler-Lommatsch Altfranzoesiches Woerterbuch, Von Wartburg, Franzoesisches etymologisches woerterbuchなどの大型辞書の検索にもさらに時間を費やす必要がある。しかし、当初の研究計画では「パリ写本」の校訂作業にはさらに半年を割くことができる。また、研究計画全体では、まだ、3年の時間が残されているため、遅れが生じているとまでは言えない。
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今後の研究の推進方策 |
上記に述べた通り、「パリ写本」の校訂テクストは荒削りの状態であり、まだまだ手をかける必要がある。しかし、当面は「パリ写本」を離れ、2016年度前半から、「ケンブリッジ写本」の校訂作業に着手する。個々の写本の校訂テキストの完成度を上げることも重要であるが、まず、校訂対象である三写本の全体像を校訂テキストの形で可視化することが、研究作業をより効率的に進めるのに有効だと判断されるからである。また、校訂テクストは、時間を費やせば費やすほど完成度をあげることができるため、逆に言えば、永遠に終わりが来ない作業とも言える。したがって、「パリ写本」校訂テクストが一応の完成を見たこのタイミングで、一度、作業を切り上げ、「ケンブリッジ写本」の校訂テクストの一応の完成を目指すことは大きなメリットがある。第一に、研究計画の進捗を確実なものとできる。つまり、確実に研究計画年度内に三写本の校訂テクストを完成することができる。第二に、写本によって校訂テクストの完成度にばらつきが生じる危険を回避できる。「リヨン写本」は比較的短いテクストのため、かなりの手間をかけて完成させたが、同じことを、「パリ写本」で目指し、結果的に時間不足で、「ケンブリッジ写本」の校訂テクストだけが不満の残るものとなる、といった事態を防ぐことができるのである。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外書籍の発注の際、為替変動により、誤差が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度分の交付金と合算することで、有効に活用する。
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