研究課題/領域番号 |
26370358
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
小栗栖 等 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60283941)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テキスト校訂 / 『ロランの歌』 / 武勲詩 / パリ写本 / リヨン写本 / ケンブリッジ写本 / 文献学 / 電子校訂法 |
研究実績の概要 |
2015年度には、リヨン写本の校訂作業を進めたので、その作業過程で発見した事実について、2016年5月27日に亜細亜大学で開催された、国際叙事詩学会日本支部、研究発表会において、「リヨン写本『ロランの歌』のテクスト」と題した研究発表を行った。そこでは、写本画像を示しつつ、従来の校訂者の読み違えを指摘するとともに、いくつかの詩行について、新たな解釈を提案した。また、2015年中には、2014年に刊行されたシャトルー本『ロランの歌』(The Chateauroux Version of the <Chanson de Roland> A Fully Annotated Critical Text, (ed.) Marjorie Moffat, De Gruyter)を詳細に考察にしたが、それについては、書評を、19世紀に創刊された権威あるドイツの専門誌、『ロマンス語文献誌』(Zeitschrift fur romanisches philologie, De Gruyter)に投稿し、2016年10月10日に掲載された。書評ではあるが、写本や他の校訂本との詳細な比較検討を行い、当該刊行本の多数の誤りを指摘するにとどまらず、モファット氏を含む、従来の研究者たち全てが、解釈を誤っていた箇所について、文献学的証拠に基づき、新たな解釈を提案した。したがって、32ページにおよぶ、本書評は実質上、雑誌に匹敵する内容を有している。最後に、私の校訂作業はコンピュータやタブレットといった電子機器を最大限に利用しようとする電子校訂法に基づく。そして、その作業の過程では様々なソフトウェアを独自開発する。2016年度には、iPad用のアプリとして、AiVeillantif, AiDurendal, AiAlmaceという三つの電子辞書・PDF閲覧アプリを開発し、AppStoreに公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画ではリヨン写本(L写本)、パリ写本(P写本)、ケンブリッジ写本(T写本)の順に校訂作業を行う予定であったが、2016年度初めに予定を変更し、ケンブリッジ写本の校訂作業を先に行うこととした。裏写りする紙に、滲むインクで書かれた本写本は、マイクロフィルム上では大変読み取りにくい写本ではあったが、一応、全体を読み通し、電子テクストの作成を終えた。 その後、テクストの詳細な検討に入る予定であったが、所属機関を変更することとなり、年度後半はまとまった研究時間の確保が難しくなった。そのため、分散した隙間時間でも、比較的作業の進めやすいパリ写本の校訂作業を行った。 目下、この二写本については、写本と校合をすませた電子テクストが完成した段階であるが、他の校訂本との比較考察、句読点の付加などの作業は、ほとんど手付かずである。2015年度に、シャトルー本『ロランの歌』の新刊行本の詳細な検討を行ったことによる作業の遅れとあいまって、作業日程はかなりタイトなものとなりつつあるが、それでも、取り返しがつかないほどの遅れとは言えない。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、まず、パリ写本とケンブリッジ写本の校訂テクストの完成を目指す。それが終わり次第、テクストの詳細な検討を行う。その際には、Raoul Mortier刊行のLes Textes de la Chanson de RolandのVersion Paris, Version Cambridge、French Corpus Song of RolandのThe Paris Version (A. Rejhon刊行), The Cambridge Version (Van Emden刊行)という二つの既存校訂テキストとの比較考察が必要となる。テクスト自体の難解箇所に加え、これらの校訂本の問題箇所に対する、本研究課題担当者の見解を提案することが、校訂テクストの作成と同程度に重要だということは言うまでもない。したがって、この作業についても、膨大な時間と労力を費やすことになるが、基本的には、2016年度後半をのぞく、従来のペースを維持すれば、研究目標は概ね達成できる見込みである。ただし、2016年10月に、またしても、新たなシャトルー本『ロランの歌』の校訂本が発行された。当然ながら、この校訂本の検討にも、ある程度の時間を費やすことになるが、今回は前回のような大部の書評を書く必要はないはずなので、研究計画に大きな影響を与えることはないだろうと思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属研究機関を変更することになったことにともない、年度後半の研究に若干の遅滞が生じた。そのため、必要な購入参考文献や備品の整理ができず、予定していた発注を見合わせた。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに、購入参考文献・備品の整理が終わっているので、2017年度初頭に、発注を行う。
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備考 |
本サイトでは、研究課題の達成のために開発された電子辞書やソフトウェアがすべて無料で公開されている。
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