西洋古典文学では、ジャンルの伝統と革新の問題の解明がその最重要課題の一つだが、文学的伝統を受け継ぎつつそこに新たな創造的革新の手を加える方法の一つに、「引喩適合法」と呼ぶべき方法がある。先行作品の一節をそれを示唆する引喩(allusion)によって新たな文脈に適合させることで独自の作品に活かすという手法である。本研究はこの観点から具体的な古典文学作品を実証的に究明し、ジャンルの伝統と作品の独創性の様相を明らかにすることを目指した。その検討と考察の作業を通じて、「引喩適合」という手法が具体的な形で実践されていることを一定の確実性をもって捉えることができたと考えている。
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