最終年度に当たる今年度はアルジェリア仏語文学の「女性・戦争・移民」のテーマについて、以下の研究を行った。 1)マグレブ文学翻訳のシリーズ刊行として、自分の翻訳希望作品(ヤミナ・ベンギギ、レイラ・セバール、アシア・ジェバール)を選び、かつシリーズ全体の構成を日本マグレブ文学研究会メンバーで検討し、刊行が開始された。また、中東現代文学会編の文学選集で、本研究の対象作家であるベンギギの抄訳を掲載した。 2)学会やシンポジウムでの発表:昨年3月末のシンポジウムも含めて、ヨーロッパの移民・難民というアクチュアルなテーマでのシンポジウムの発表を複数回行なった。いずれも現在のフランスにおける北アフリカ出身フランス人の来歴と文学創造を論じたものであり、ヨーロッパ全体を俯瞰する際にフランスからの視点を提供できた。5月には、フランス語圏研究国際評議会CIEFの大会で発表を行ない、日本人研究者4名でセッションを組んだ。自分はアルジェリア文学からアシア・ジェバールの作品受容をとりあげたが、セッション全体としてカリブ海・ケベック・セネガル・マグレブがとりあげられ、日本におけるフランス語圏文学研究の現状報告にもなった有意義な機会だった。 3)勤務校の公開講座でパリのエスニシティマップを取りあげ、移民、外国人が根づいて醸成するパリの文化について紹介した。 4)日本マグレブ文学研究会主催で、アルジェリア文学国際シンポジウムを開催した。アルジェリア文学の祖、ムルド・フェラウンと女性作家の草分け、アシア・ジェバールを中心に据え、アルジェリア、韓国、日本からの研究者が集う、専門性に重点を置きつつ研究者間の活発な情報交換が行なえた時空間となった。今年度が本研究の最終年となるが、翻訳刊行の目処がつき、国際シンポジウムという特別な場が設定できたことで、大きな収穫があったと言える。
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