研究課題/領域番号 |
26370369
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
安原 伸一朗 日本大学, 商学部, 准教授 (80447325)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ショアー / ヴェルディヴ事件 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、まず、パリのショアー記念館、オルレアンのCERCIL(ヴェルディヴ事件に巻き込まれた子供たちの記念館)、およびリモージュ近郊のオラドゥール・スュル・グラーヌでの資料調査を行なった。とくにCERCILでは、創設者のエレーヌ・ムシャール・ゼ氏の案内を受けたことにより、戦後のフランスにおける収容所の記憶の変容について、レジスタンスが収容されていたブーヘンヴァルト収容所の記憶が中心となり、強制収容所と絶滅収容所との区別がはっきりなされていなかった終戦直後の時代から、ユダヤ人たちが虐殺されたアウシュヴィッツが前面に登場し、強制収容所と絶滅収容所との相違が明確に意識されるようになった段階、そして、フランスが過去の罪に向き合うようになった段階への歴史を具体的に把握することができたのに加えて、1942年のヴェルディヴ事件の前段階として1941年5月に遂行された、パリ地域の外国籍ユダヤ人の成人男性のみを対象としたビエ・ヴェール作戦の詳細を理解することができた。現在、これらの資料調査とその考察を発表すべく、論文にまとめる準備を進めている。 また、自分の出自を知らされぬことによって戦時中のフランスを生き延びることができたユダヤ系の子供であるピエール・パシェについて、彼の主著『私の父の自伝』をめぐり、国際シンポジウムで発表した。そこでは、自分がいかに危険な状況を経ていたのかという点について戦後になって事後的に知ったことが、情動や思考の内面性の徹底した探求へとパシェを向かわせていること、とはいえ、その探求が全体主義に対する強い反抗に開かれていることなどを論じた。また、シンポジウム内での議論を通じて、パシェにおける戦時体験の重要性が再確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度延期していたフランスでの資料調査を行なうことができたこと、および、戦時下のフランスで出自を偽って生き延びた子供であるピエール・パシェをめぐって、その作品の分析を彼自身の歴史的経験を考慮に入れて論じることができたことによる。ただし、資料調査の結果はまだ公表できておらず、現在、論文を準備している段階である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に行なったフランスでの資料調査のなかでも、ショアー記念館とCERCILでの調査結果およびその考察を論文にまとめる。ビエ・ヴェール作戦とヴェルディヴ事件によって、皮肉にも、父親のみが生き残り、娘や妻が殺された事例などを扱う予定である。そして、本研究の最終年度として、これまでの研究を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定より安価に航空券を入手することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
さらなる資料の購入、および国内学会発表の旅費として用いる予定である。
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