最終年度である本年度は、研究実施計画に基づき、『聖アントワーヌの誘惑』研究の第一人者であり、プレイアッド版フローベール全集校訂者の一人であるジャンヌ・ベム名誉教授を関東学院大学に招聘し、本学、大阪大学大学院、および東京大学(駒場キャンパス)で開催された日本フランス語フランス文学会本大会に合わせたものを加えると、3回の研究者集会講演会を企画・開催した。各大学において、非常に盛況で質疑応答も多かった。日本フランス語フランス文学会特別講演では、「ボヴァリー夫人」校訂の舞台裏について、本国でも知り得ない情報を公開していただいた。本プロジェクトのテーマ「ファム・ファタル」や「ファタリテ」に関して実施した招聘教授ベム女史とのインタヴューは非常に有意義であった。 イタリア出張では、フローベールの青年期に作品執筆のインスピレーション源となったブリューゲル作の『聖アントワーヌの誘惑』を中心にジェノヴァおよびフィレンツェで絵画調査を実施することができた。現地では従来の転記作業を継続して行い、完成を目指している。 草稿研究および「ファム・ファタル」研究の成果として、前科研費プロジェクトの成果「サラムボー」校訂版(Droz社)の書評が相次いでおり、文芸批評誌R.H.L.F.、Nineteenth-Century French Studies、Oxford大学のFrench Studiesで高い評価を受けることができた。 これらの成果として、蓮實重彦著「フローベール『ボヴァリー夫人』論」(830頁)のRomantisme誌への書評執筆依頼を受けて執筆し、海外から評価を得た。同時にユリイカ「総特集 蓮實重彦」では、前半にプランやシナリオを巡る議論を含む書評、後半にはフランスにおける現代フローベールおよびその周辺の研究動向をまとめるため、フランスの各大学や国立科学研究所等の研究機関と情報交換を実施した。
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