フローベールが「生涯の作品」とよび一生に三度も書きなおした『聖アントワーヌの誘惑』に登場する宿命の女性像は19世紀のロマン主義や象徴主義の概念に多大な影響を与えたと言われている。本研究では従来顧みられなかった第二稿の全自筆原稿と、本作品のために作家が準備した4つの「読書ノート」を解読・転記して公開し、最も難解で膨大な初稿と晩年の決定稿との間に見られる作品構造の差異を実証的に辿りつつ19世紀ファム・ファタルとフロベールにおけるファタリテの問題を捉え直した。成果はフローベール研究所および日仏の文芸雑誌に発表するとともに、メッシナ大学で草稿に関して講演し、ジャンヌ・ベム女史を招聘して議論を深めた。
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