研究課題/領域番号 |
26370375
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
有馬 麻理亜 近畿大学, 経済学部, 講師 (90594359)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シュルレアリスム / 社会思想 / 秘教 / 共同体 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず本課題の問題体系を整理し、その成果として論文「「再生の神話」から新たな社会思想の構築へ: 第二次世界大戦期におけるアンドレ・ブルトンの進化」(『近畿大学教養・外国語教育センター紀要 外国語編』、第5巻、平成26年7月)を発表した。この論文では、第二次大戦前後におけるブルトンの思想の特徴を解明するために、当時彼が関心を抱いた主題を神話と倫理的問題に関するものに分類し、その相互的影響を分析した。その結果、この二つの主題が、秘教にある善悪の構造と密接に関係があることを示すことができた。 一方、本課題の基盤となる30年代におけるブルトンの思想とその後彼が関心を抱いた神秘主義との関係について論じた論文(「共鳴とすれ違い 「コントル=アタック」前後のブルトン、バタイユそしてライヒ」、『バタイユとその友たち』、共著、水声社、平成26年7月)が刊行された。さらに、京都産業大学長谷川晶子氏と山形大学合田陽祐氏とともに、関西圏のシュルレアリスム研究者、及び他分野の研究者間の交流と、各自の研究視点を多様化することを目的とした「関西シュルレアリスム研究会」を立ち上げた。第1回研究会は2月9日大阪大学で開催し、山形大学合田陽祐氏を迎え発表をしていだだいた(題:「小雑誌」から見る世紀末文学場の変容―『メルキュール・ド・フランス』の批評欄を中心に)。さらに、今後の会のあり方や、互いの研究成果をいかに外部へ発信するかなどについて議論した。第2回は3月9日、神戸大学梅田インテリジェントラボラトリで行ない、神戸大学中畑寛之氏(題:シュルレアリストたちの「骰子投げ」)、ならびに京都産業大学長谷川晶子氏(題:アンドレ・ブルトンにとって有名/無名とは)に発表をしていただいた。いずれの研究会でも活発な議論が行なわれ、有意義な活動となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、次年度以降の研究の準備となる「神秘主義に対するブルトンの問題意識の発展と宗教性へ接近に関する調査」を主要な課題としていた。これに関連して、秘教、フーリエの受容といった、ブルトンの思想に関する研究を進めることが必要であった。そこで、3月にパリで資料収集を行ない、シャルル・フーリエと秘教に関する資料のうち、デジタル・ライブラリーに入っていない書籍で、かつ日本からの複写依頼が困難なものを参照することが可能となった。その成果として、現在論文を準備している。 一方、30年代から戦後までのブルトンの神秘主義に対する関心を時代別に分析し、共通部分と発展していく点を具体的に示すことを第二の課題としていた。この課題に関しては、戦間期から戦後にかけてのブルトンのテクスト分析(『シュルレアリスム第三宣言発表か否かの序論』(1942)、『秘法十七』(1942-1947)、『シャルル・フーリエのオード』(1947)、『上昇記号』(1947))を本年度の目標として設定していた。結果として、前半の2作品を論文(「再生の神話」から新たな社会思想の構築へ: 第二次世界大戦期におけるアンドレ・ブルトンの進化))として発表することができた。残りの2作品に関しても、既に述べたように、渡仏で参照した資料を生かすべく、現在論文を準備中である。この論文の発表年度は、投稿の締切日や刊行のスケジュールを考慮すると、正式な発表は平成27年度以降になるとは思うが、本年度の目標に関しては比較的順調に進めることができたと思う。最後に、研究者間の交流だけでなく、外部への研究成果発表の場という役割を持つ、研究会の立ち上げの意義は大きい。ただし、研究計画において、可能であればという条件で、本年度に「反文明モデルとしての『魔術的芸術』(1957)」という主題を検討することを予定していたが、この問題に関しては来年度に取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
まずは先に挙げた『魔術的芸術』(1957)の分析を開始する。そのうえで、研究計画に記した、本年度以降に取り扱う予定である主要な課題に取り組む。その課題とは、倫理的問題と宗教性への接近との関係、および戦後までに構築されるシュルレアリスムの社会思想を定義することである。これらの課題に取り組むため、次の二つの具体的問題を設定している。 ① 思想史や宗教学といった、申請者において未知の分野に関する文献収集と分析を行なう ② 戦後のシュルレアリスムおける社会思想と他の同時代作家との関係を明らかにする ①については、宗教学や社会思想史・社会学に関する先行研究を開始し、革命的理想主義を掲げたブルトンの共同体思想が、一般的にどの思想に影響を受けたのかを探る予定である。そこで、現在研究中の社会思想者シャルル・フーリエを優先的に取りあげつつ、共同体の問題においては、フーリエの提示した共同体ファランジュとブルトンが示す倫理的問題を中心に行なう予定である。また、ブルトン思想に垣間見える革命的理想主義との関係で、先行研究で指摘がある社会主義思想者サン=シモンを扱いたい。②の問題については、ブルトンとは政治的・思想的立場の異なる同時代作家で、なおかつ宗教色が強く、作品に神秘主義が表れているような作家に関する研究を準備したい。研究の遅れがでないように、まずは今まで取り上げた作家(例:バタイユやツァラ、アラゴン)の分析を優先させるが、できればブルトンと30年代半ばから接点があると分かったジューヴとブルトンの関係を取り上げたい。
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備考 |
上記はいずれも2015年2月から活動を開始した、関西シュルレアリスム研究会に関するものであり、主に活動内容(研究者による発表など)を公開している。 (1)に関しては、研究会の発起人の一人としてサイトの編集に携わっている。その他の発起人は長谷川晶子氏(京都産業大学)と合田陽祐氏(山形大学)である。本サイトは長谷川晶子氏と共同管理している。 (2)に関しては、長谷川晶子によって作成・管理されている。
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