研究課題/領域番号 |
26370375
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
有馬 麻理亜 近畿大学, 経済学部, 講師 (90594359)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | アンドレ・ブルトン / 社会思想 / シャルル・フーリエ / 神秘思想 |
研究実績の概要 |
本年度はシュルレアリスムにおける宗教性への接近と、第二次世界大戦期にブルトンが構築する社会思想との関係を検討した。まずは、京都産業大学の長谷川晶子氏と山形大学の合田陽祐氏とともに2月に立ち上げた関西シュルレアリスム研究会の第3回研究会において発表を行なった(「第二次世界大戦前後のアンドレ・ブルトンの思想―「政治的理想化」とフーリエ」)。この発表では、30年代から構築されたブルトンの思想形態「観念論なき理想主義」が、戦争を通じて「政治的理想化」へ移行するにつれて、ブルトンがシャルル・フーリエへ関心を抱いていくことを提示した。 さらに、戦後ブルトンがハイチで行なった講演を分析し、論文として発表した(「「社会主義の夢 reve du socialisme」:戦後におけるブルトンの文芸批評とロマン主義再興」、『近畿大学教養・外国語教育センター紀要』、第6巻第1号)。この論文では、ロマン主義文学を通じて、ブルトンがフーリエ、サン=シモンといった社会思想家と、神秘学思想家エリファス・レヴィや彼に影響を受けたヴィクトル・ユゴーらを一つの精神の系譜として捉えていることを提示したうえで、ブルトン思想においては、社会変革を求める理想主義が神秘主義へと接近するという、精神の発展モデルが設定されていることを明らかにした。 一方、ブルトンとは政治的・思想的立場の異なるものの、神秘主義を取り上げている作家との関係についても考察を行なった。日本フランス語フランス文学会秋季大会(ワークショップ3:「コントル・アタック」のバタイユとブルトン、そしてシュルレアリスム ─ 彼らの共同作業についてともに再考すること/パネリスト:鈴木雅雄、岩野卓司、丸山真幸、有馬麻理亜)において、「コントル・アタック以後のブルトンとバタイユ」という題のもと発表を行ない、40年代以降のブルトンとバタイユの交流を取り上げた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初設定した平成27年度(以降)の目標は、倫理的諸問題と宗教性への接近との関係を深めるとともに、戦後までに構築されるシュルレアリスムの社会思想を定義しすることと、戦後のシュルレアリスムおける社会思想と他の同時代作家との関係を検討することであった。 既に述べたが、本年度の業績からみると、第3回関西シュルレアリスム研究会での発表や近畿大学紀要で発表した論文、日本フランス語フランス文学会で行なったワークショップでの発表はすべてこの目標に沿ったものとなった。以上から本年度の目標に関しては比較的順調に進めることができたと思う。 さらに最終年度である次年度にむけて、本年度の研究から得られた結果から、今後検討すべき課題を得ることができた。それがオーギュスト・ヴィアットとロジェ・ピカールという存在である。ヴィアットはオカルティズムとロマン主義をアカデミックな分野で結びつけた先駆者であり、ピカールはヴィアットの研究を踏まえつつ、社会主義思想の強い影響を受けた人物である。本年度行なったフランスでの資料収集では、彼らとブルトンの直接的・間接的繋がりを見出すことができた。これらの成果については、本年度中に論文として発表する予定である。 最後に、2月に立ち上げた関西シュルレアリスム研究会もまた、当該研究において有益となった。というのも、この研究会を通じて、シュルレアリスム研究者間の交流や研究発表の場を提示するだけでなく、他分野の研究者からもシュルレアリスムに関係する研究発表を希望する声がでてきたからである。ただし、研究計画において、可能であればという条件で、昨年度に「反文明モデルとしての『魔術的芸術』(1957)」という主題を検討することを予定していたが、この問題に関しては、本年度の目標達成を優先するために次年度に行なうことにした。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度と最終年度である平成28年度については、あらかじめまとめて目標を設定していた。これは別課題を設定すると、年度毎に達成度がずれ込むリスクがあったからである。そこで、当初の研究計画通り、次年度は本年度の研究成果を随時発表すること。そして、前年度と本年度に扱うことができなかった『魔術的芸術』(1957)の分析が主な課題となる。具体的には次の4つの方向性で進めていく。 ① 本年度の資料収集等で得られた結果、特にブルトンと神秘主義や社会思想を繋ぐことになったヴィアットやピカールに関する論文や口頭発表をすること。 ② 一方以前から研究を進めていた、ブルトンとシャルル・フーリエの関係など、まだ論点が多く残っており、以前資料収集等で、得られた成果があるので、できるだけ論文・口頭発表の形で提示すること。 ② 本年度は同時代作家のジョルジュ・バタイユを取り上げたが、次年度はブルトンと関係のあったピエール・マビーユという人物についての先行研究と分析を進める。ピエール・マビーユはブルトンのハイチ講演を可能にした人物であり、秘教といった神秘思想に通じている。マビーユとブルトンの相互関係は本課題にも深く関係していると思われるからである。 ③ 「反文明モデルとしての『魔術的芸術』(1957)」という主題を検討することを予定していた。この作品が、本年度分析したテキストより後に出版されたことから、前年度と本年度には優先的に扱うことができなかった。本年度はこの作品に取り組む。 以上の3つの課題を中心に、今までの成果をまとめていきたい。
|
備考 |
上記はいずれも2015年2月に立ち上げた関西シュルレアリスム研究会のサイト。発起人は報告者の他、京都産業大学長谷川晶子氏と山形大学合田陽祐氏で構成される。( 1 )は報告者と長谷川氏による共同管理、( 2 )は長谷川氏によって管理されている。
|