平成29年度にも前年度に引き続き、資料収集や情報の整理、国内外の研究者との交流を行った。 同年4-9月には前年度に引き続き、カラムジンの著作や19世紀初頭の雑誌資料の分析を進めた。前年度より進めていた1793年度の詩「ヴォルガ」の分析を論文にまとめてサンクトペテルブルクのロシア科学アカデミーロシア文学研究所に最終的に提出し、受理された。論集の刊行は当初の予定より遅れたものの、平成30年夏ごろに予定されている。この論文では、現在ロシアのナショナル・シンボルとされているヴォルガ川のイメージが、18世紀末までの段階でどのような様相を呈していたかというこれまでの研究成果を継承しつつも、18世紀末以降のロシアの知識人に広く知られたカラムジンの著名な詩「ヴォルガ」を、彼の書簡や友人ドミートリエフの作品を参照しつつ新たに分析し直した。結果としてこの作品ではロシアの多文化的な空間やその女帝のイメージが前面に出されるのみならず、身近な人々との絆の象徴としてのその役割が強調されていることも明らかにすることで、ロシアの空間イメージの問題を考える上での重要な材料を得ることができた。 この内容は、9月末に明治大学で行われた日本ロシア18世紀研究会でも一部発表された。 また、エカテリーナ二世のヴォルガ旅行をめぐる問題について考察を進めるうち、広大な空間の統治と啓蒙、特に外国語文献の翻訳出版が強い関係を持っていることを痛感した。この論点については同年9月にモスクワで補足的な資料収集を行い、10月以降、現在に至るまで論文にまとめる作業が進行している。
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