研究課題/領域番号 |
26370381
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
森野 聡子 静岡大学, 情報学研究科, 教授 (90213040)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 民衆文学 / マビノーギオン / ウェールズ / O.M.Edwards |
研究実績の概要 |
ウェールズの歴史・文学・文化等を挿絵入りウェールズ語雑誌によって一般に紹介するなど、19世紀末におけるウェールズ民衆の啓蒙に努めた O. M. Edwards の活動を調査するため、彼がウェールズ語講座教授であったウェールズ大学アバリストウィス及びウェールズ国立図書館にて史料収集を行った(平成26年8月21日~9月11日)。調査の主な内容は以下のとおりである。 1.Edwards が発行した雑誌『カムリ(Cymru)』における、中期ウェールズ語説話「マビノーギオン」の扱われ方、および同誌におけるウェールズの歴史・伝統文化についての記述の分析 2.Edwards を中心とした Oxford Welsh と呼ばれる知識人グループによる、ウェールズ語の正字法・文体の規範化と、彼らがモデルとした民衆の言葉・中世伝承文学のスタイルとの関係 上記の研究成果として、第34回日本ケルト学会研究大会(平成26年10月12日・宮城学院女子大学)でのシンポジウム「王統史から国民史」において、君主の年代記から民族の歴史としてのヒストリオグラフィーがウェールズで誕生してくる経緯についてパネラーとして発表を行った。 また中央大学人文科学研究所の客員研究員に招へいされ、アーサー王物語についての研究プロジェクトの一員として、19世紀において、ウェールズを代表する中世文学として評価されるようになった、ウェールズ語のアーサー物語について担当、その成果を出版物として刊行することになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、平成26年度は中期ウェールズ語説話「マビノーギオン」が民衆文学として受容されていく過程を調査、さらにその成果を平成27年度に開催される国際ケルト学会で発表することを目標としていた。ウェールズ国立図書館での史料調査によって、ウェールズ語で子ども向けに再話された「マビノーギオン」のテクストを分析、19世紀末の子どもや民衆向け雑誌でどのように取り上げられているかも概観できたため、ほぼ目的が達成できたと判断する。また、平成27年7月にスコットランドのグラスゴー大学で開催される第15回国際ケルト学会に、The Mabinogion, of the people, by the people, for the people のタイトルで応募したアブストラクトが受理され、口頭発表を行うことになった点もふまえ、研究はおおむね順調に進展していると考える。 ただ、当初、予定していた「マビノーギオン」の文体と、19世紀末に始まった「正しいウェールズ語」の制度化の関係については、実証を得られるには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
O. M. Edwards が刊行した大衆向け啓蒙雑誌『カムリ』(1891-1927)を一次資料として、民衆教育の素材に使用された歴史・伝統文化・文学の扱われ方についての内容分析を進めるとともに、多用されているイラストについて分類・データ化を行うことで、19世紀末に発展する、ウェールズ文化の担い手としての「民衆=ウェールズ語のグウェリン」観とはどのようなものであったのかについて、具体的に検証する予定である。 また、『カムリ』におけるウェールズ語の文体の特徴に関しても、中期ウェールズ語以来の文語表現との比較から考察を始めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題のために必要な文献を海外発注したが、年度内に納品されなかったため、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
文献資料用の経費として使用する計画である。
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