研究課題/領域番号 |
26370381
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
森野 聡子 静岡大学, 情報学部, 教授 (90213040)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | O・M・エドワーズ / カムリ(雑誌) / マビノギオン / 民衆教育 |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究実績としては、19世紀末~20世紀初めのウェールズを代表する研究者にして教育家O・M・エドワーズ((1858~1920) が、ウェールズのどのような文学を民衆の啓蒙のために活用したかについての概要が把握できたことである。資料としては、エドワーズがウェールズ民衆のために発刊した雑誌『カムリ』(Cymru、1891~1927)で紹介された文学者や文学作品、歴史・文学史に関するエッセイ、および同じくエドワーズが企画した一般向け古典文学シリーズ Cyfres Clasuron Cymru (1898~1901)を用いた。その結果、『カムリ』で取り上げられているウェールズ文学は19世紀の詩、詩人が一番多く、散文についてはまれで、特に『マビノギオン』こと中期ウェールズ語説話からは『キルフーフとオルウェン』『ペレディール』の2話しか見つからなかった。古典文学シリーズでも『マビノギオン』からは『フロナブウィの夢』が発行されているのみである。これは、エドワーズの文学観において、『マビノギオン』は7~13世紀までのウェールズ諸公の時代の宮廷文学と位置付けられており、民衆文学という観点からは、彼が「覚醒の時代」と名付けた1730年代以降のメソジスト革命と文芸復興がより重要であると考えられたからであることがわかった。以上の研究成果は、2015年7月にスコットランドのグラスゴー大学で開催された第15回国際ケルト学会にて The Mabinogion of the people, by the people, for the peopleというタイトルでの研究発表につながった。 エドワーズの民衆文学観に『マビノギオン』が含まれていなかったという発見は、『マビノギオン』の受容が印欧語族比較言語学とフォークロア研究の本格化を背景とするという研究者のこれまでの仮説を裏付けるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
19世紀末における「グウェリン」こと理想化されたウェールズ民衆のイメージの生成にかかわった社会的・文化的背景、グウェリン言説の分析を目的とする本研究において、グウェリンというイデオロギーの流通に最も大きな影響力をもったとされるO・M・エドワーズが、グウェリンのための文学をどう定義したのか、そして、その背景にある彼の歴史観・文学観が明らかにできたことで、目的の半分は達成されたと判断する。同時に、世紀末より発行されるようになる『マビノギオン』のウェールズ語翻案版においても、シャーロット・ゲストの英訳同様、ヴィクトリア朝のモラルに抵触する部分は書き換えられていることが判明し、民衆を「無垢なる子ども」、あるいは、前産業社会の素朴だが教養ある民と定義する、ロマン主義的なグウェリン観がここでも確認された
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、19世紀より盛んになる、連合王国の構成員に関する人種的言説に注目し、スコットランド、アイルランド、ウェールズというケルト周縁地域の住民が人種的にどのように分類されていたのか、一方、ウェールズ知識人自身は、自分たちの民族起源や人種的特性をどのように定義していたのかを調査することで、これらの言説とグウェリン観の関係を考察したい。
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