研究課題
当該年度は、19世紀ドイツ語圏における言語ナショナリズムの高揚や俳優の超地域的な活動に伴う俳優の語り言葉の純粋化と標準語化が推進されてきた背景を踏まえながら、ドイツの演劇評論家ハインリヒ・レッチャーの演技論のなかで提唱された俳優のための音声論を対象に、その理論化の基盤に援用されたヴィルヘルム・フォン・フンボルトの認識論的言語思想の影響を検証した。また、ドイツの国民劇場の制度確立の推進者である演劇史家エドアルト・デフリーントの『ドイツ演技術史』(1848-74)を対象に、市民層出身の俳優の社会的地位向上による道徳化とその教育啓蒙的役割について調査を行った。その際に、19世紀のドイツ語圏での俳優に対する音声重視の演劇政策のもとで、著名な俳優たち、例えば教養市民層出身の俳優アウグスト・ヴィルヘルム・イフラントや、ヴィーンの国民的女優として顕彰されたゾフィー・シュレーダーらが、卓越した朗読術を駆使することで、方言を排した純粋音声を支配し、国民文化的な象徴的人物として偶像化されたことを分析した。さらに研究課題に対し複合的視点から分析的アプローチを行うため、本研究代表者は近代フィクションにおける情動性を喚起する演劇的また象徴的言語を、主に世俗的ジャンルの文芸作品を対象に検証した。また実際にそのテクストの音声化の実験を行うことで、テクスト言語の音声化に際する標準化や規範化の意識の介入みならず、それに伴う音声解釈者の個人性の消却についても検証した。
3: やや遅れている
世界情勢の悪化と感染症の拡大により、海外渡航に関するリスクが高まったため、当該年度の海外調査を見合わせ、既に収集していた一次資料の分析と新しい理論の構築に専念した。
前年度の研究成果を基に、本年度は、19世紀ドイツ語圏の演劇における、音声中心主義的傾向と演劇言語の文法化を主要な研究課題として取り組む予定である。また、国民劇場改革派の演劇論や俳優論、俳優についての主要都市のメディア言説、国民言語教育派のテクストを対象に、19世紀ドイツ語圏における俳優像の変化と、俳優の国民啓蒙的また言語教育的な役割について引き続き調査と分析を行う。
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International Journal of Comic Art
巻: Vol 17, 1 ページ: 583-597
三重大学人文学部文化学科研究紀要 『人文論叢』
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Scandinavian Journal of Comic Art
巻: 2 ページ: -
日本ワーグナー協会編『ワーグナーシュンポシオン』
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http://miuse.mie-u.ac.jp/handle/10076/14416