詩学の情動論的な側面を物語概念によって再解釈する本研究は、一面では、詩学の議論のなかで歴史的な見通しを得るために用いられてきた物語を探る作業となり、崇高概念の様々な側面や古代作品の翻訳をめぐって、テクストや当時の人々の意識のなかにある複数の物語を明らかにして整理した。 別の一面では、作用詩学の情動論的な思考を、実際の悲劇における物語の変容と関係付けて理解する作業となった。物語の関係論という視点で当時の詩学の考え方を再検討した。情念の発生を、劇中の物語のせめぎ合いや、主人公の物語と受容者の物語の重ね合わせといった点から振り返り、「作者性」という概念によって情念論と物語論の接合面の記述を試みた。
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