研究課題/領域番号 |
26370385
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊池 正和 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (30411002)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イタリア演劇 / 演出 / 未来派演劇 / ピランデッロ / マルコ・プラーガ |
研究実績の概要 |
採択2年目にあたる平成27年度は、まず前年度において研究を進めていた、「未来派演劇理論の演出とのかかわり」について、論文「理論と実践の交差 -マリネッティの総合演劇」にまとめ雑誌に掲載した。そこでは、未来派演劇の代表的な劇作家であるマリネッティが「宣言」という形で次々に表明した演劇理論と、その実践の結果として成立した戯曲作品とを丁寧に関連付けながら綿密な検証を行った。彼の演劇の出発点はフランス象徴主義であり、その過剰に張り巡らされた類推の網や隠喩を多用した劇作法は、終生彼の演劇の基底をなすことになる。その後未来派を創立するが、その運動の中心的トポスとなった「未来派の夕べ」における聴衆との関係性から新しい演劇の在り方を着想する。それは、舞台と客席、演じる側と観客との間の境界を消失させ躍動を生み出すというものであった。当時、大衆の娯楽として流行していたヴァラエティー・ショーにヒントを得て、ついに「総合演劇」の理念を明文化する。その中心概念は「シンテジ」と呼ばれる、短さを本質的要素とした劇的断片であり、わずかな台詞や仕草のうちに無数の状況や感覚を凝集する。それが実践に移された戯曲においては、複数の空間を同時に提示する「浸透」や、人間の心理や感情を物体の生に外在化させた「オブジェドラマ」などの優れて独創的な劇作法に加え、驚愕の惹起や触覚への刺激を提案することで、劇行為の内側に観客を引き入れることに、ある程度までは成功したと言える。 その後、当初の計画にあった、「劇作家の側からの演出的行為の実践に焦点を当てて、演出家の登場を準備するに至った決定的な局面を明らかにする」ことを目的に、劇作家兼座長として劇団を率いたピランデッロとマルコ・プラーガの2人の作家の上演記録を収集し、分析に努めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度の当初計画のうち、イタリア国内におけるヨーロッパ演出の受容史についての研究が若干遅れているので上記の評価とした。 当該テーマに関しては、2006年以降ミレッラ・スキーノを中心とする研究者グループが、1911年から1934年までのイタリア国内におけるすべての上演・演出記録の膨大なデータをまとめており、資料自体は概ね揃っていると言えるが、ヨーロッパの最先端の演出の効果や思想について分類・整理すること、そして、それがイタリアの劇作家や俳優に及ぼした影響について、個々の上演記録や劇作家の台本の内にその裏付けを求めて論証するという作業が、当初予定ほど進んでいないのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年にあたる平成28年度は、まず、現在研究を進めている劇作家兼座長としてのピランデッロとマルコ・プラーガの活動に焦点を当て、劇作家の側からの演出的行為が、後の演出家の登場を準備するに至る決定的な局面であったことを明らかにし、論文としてまとめることから始めたい。 その後、これも当初27年度の計画であったが、イタリア国内におけるヨーロッパ演出の受容史についての研究を進め、近いうちに口頭発表や論文という形で発表できる段階まで進めたい。 当初、平成28年度の計画として考えていた、劇評家であり、国立演劇アカデミーの主宰者であったシルヴィオ・ダミーコの活動に関しては、当初予定していた2つのアプローチ、すなわち、①1914年から1955年までの40年以上にわたる膨大な劇評活動をまとめたCronache 1914/1955(『演劇時評1914-1955』)の綿密な文献学的分析、②国立演劇アカデミーの主宰としての活動の検証のうち、後者を優先的に進めていく予定である。ダミーコの役割を研究対象とした文献は少ないのが現状であるが、当時アカデミーで学んでいた俳優や演出家によって残された記録や証言が、現在アカデミーに併設されているジョヴァンニ・マッキア研究センターにあることを確認している。1週間ほど現地に赴き、こうした一次資料の調査や複写収集を行うことを予定している。 3年間の採択期間中に予定していた研究の成果をすべて今年度中に発表することは難しい状況であるが、今年度中に論文として発表できる成果、今年度は口頭発表や研究ノートとしての公表にとどめ、来年度以降に論文として出版する成果を峻別した上で、すべての計画に対して着実に進めていきたい。
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