本研究は平成26年度において主としてチリの詩人ニカノール・パラに関する資料収集を行ない、とりわけ1970年代以降にパラが実践した視覚詩等の資料調査をサンティアゴ市内で行なうことを目指した。資料収集に当たってはまず米国でここ30年間に刊行されたパラに関する博士論文18点を購入しその分析を行なった。それによると先行研究においては1)反詩という概念をパラ作品から総合的に規定しようとする研究、2)エンリケ・リンやフアン・ルイス・マルティネス等の同時代前衛詩人との比較に重点を置いた研究、3)チリにおけるカウンターカルチャーの潮流に反詩を位置づけたうえで米国などにおける同時代の類似文化との比較を試みる研究、等が主流であることが判明した。また平成27年3月16日~23日の日程でサンティアゴ市へ出張、チリ国立図書館等において必要な資料の収集に当たると同時に、現代視覚芸術美術館の関係者等を訪問しパラの創作活動において視覚芸術が占めていた役割を検証した。パラの一次資料についてはすでにFCEから2巻の現時点での詩全集が刊行されていて先行研究も本研究もこれを参照しているが、近年になってディエゴ・ポルタレス大出版局から個別詩全集が刊行され、写真などの図像とともにその原版を復元しようとする試みが進行していることもわかってきた。またパラが1973年以降の軍政時代時代にもチリ詩壇において独自の位置を占めていたこと、それについては同じ時代を生きた前衛詩人ラウル・スリータがよく比較の対象とされることもわかり、パラを軸とするチリ詩における人間関係の基本構造とその機能の様態が判明した。
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