研究課題/領域番号 |
26370390
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
赤塚 若樹 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (80404953)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 音楽文化論 / ジャズ / ポピュラー音楽 / 表象文化論 / 東欧 / 中欧 / 美術史 / 比較文学 |
研究実績の概要 |
「正常化」時代のチェコスロヴァキアの「正式」な芸術シーンにおいてきわめて重要な役割を果たしたジャズ・セクションの出版活動を検証するためにその出版物の収集につとめた。そのすべてが会員限定の出版物として刊行されたため発行部数は多くはなく、ものによっては市場にほとんど出回ることがないが、主要なところはだいぶ収集できている。たとえばジャズ・セクションが刊行したふたつの大きな叢書のうち「ジャズペティト」(全24巻)については1冊を除きすべて揃えることができた。そのほかチェコ(スロヴァキア)のジャズとその周辺領域の文化についての資料も収集するようにした。 入手できた資料については、ジャズ・セクションが出版活動においてどのような点に力を注いだのかという点に着目しながら分析を進めている。たとえばジャズ・セクションが当時、自由を象徴する新しい音楽としてのロックを「ジャズペティト」叢書などをとおして積極的に紹介していた事実に注目し、関連書籍の内容を検討した。それによって、当時はロックの歌詞の翻訳が文学的にも政治的にもたいへん大きな意味を持っていたことを明らかにすることができ、そのテーマにかんする論文も発表した。 そのほかチェコ文化にかんする研究としては、シュルレアリスムを代表する詩人ヴィーチェスラフ・ネズヴァルの小説『少女ヴァレリエと不思議な一週間』を翻訳・紹介した。また映画作家ヤン・シュヴァンクマイエルの『アリス』をアリスの部屋という観点から検討し、「子供部屋の想像力」によって作品世界が成り立っている事実を明らかにした。そのほかにチェコ・シュルレアリスムに関連する書籍の編集・翻訳も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジャズ・セクションの出版物をはじめとする資料の収集についてはひとまず順調に進んでいるといってよい。とりわけ音楽、造形芸術、文学、演劇といった多様なジャンルをテーマとする「ジャズペティト」叢書については1巻を残してすべて入手することができた。そこに収められた、新しい音楽としてのロックにかんする書籍等を利用して、社会主義体制下のチェコスロヴァキアの芸術シーンにおいてロックがどのような意味を担っていたのかを明らかにする論文も発表することができた。そのほか周辺領域ともいえるチェコの芸術について論文を発表し、翻訳書を刊行することもできた。以上のことから、おおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては以下の4つを中心的テーマとみなし、研究期間全体をとおして検討していくこととしている。(1)1971年から1987年までのジャズ・セクションの活動をあとづけ、その全体像を浮き彫りにすること。(2)ジャズ・セクションの出版活動が当時のチェコ・スロヴァキアの芸術シーンにおいて担った役割を分析すること。(3)ジャズ・セクションの本来の領分であるジャズ・ならびにポピュラー音楽が社会主義体制下でどのような状況に置かれていたかをその活動を通して分析すること。(4)主要メンバーの逮捕・拘留からその裁判を経て、強制的な活動停止へといたるまでの、1986~87年のジャズ・セクションの事件を文化的観点ならびに歴史的・政治的観点から検証すること。 昨年度(平成26年度)はこのうち(2)にかんする課題に取り組んだ。平成27年度もひきつづき資料収集を進めながら、このテーマもあつかっていき、造形芸術や文学といった、音楽の周辺領域へのジャズ・セクションの関心のあり方について調べていくつもりでいる。それにくわえて、今年度は(3)のテーマについて音楽文化論的な観点からの考察も行ないたい。昨年度発表したジャズ・セクションとロックにかんする論文はこのテーマにかかわっているともいえるが、これに関連するトピックからはじめて、当時の音楽シーンの状況とそれを取り巻く環境について検討していくつもりでいる。チェコ(をはじめとする中東欧の)ポピュラー音楽文化にかんする研究はたいへん立ち遅れており、本研究にはそうした遅れを補うといった意味あいも少なからずある。
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