研究課題/領域番号 |
26370393
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
林 志津江 北里大学, 一般教育部, 准教授 (30449300)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トーマス・クリング / 抒情詩 / メディア論 / 集合的記憶 / 書字性 / 口語性 |
研究実績の概要 |
平成26年度計画では、当初「文化的記憶とメディア論双方の理論的関連を<声と文字の交差地点を表象する詩作>というテーゼのもと、クリングの抒情詩という具体的な作品研究によって追究する」というものであり、その作品については従来から扱っていた「魔女たち」(2002年)を用いる予定でいた。しかし昨年度は新たに詩人円熟期の作品「吸い取り紙。べイルマーメア」(1993年)がまさに<声と文字の交差地点>を対象化している感触を得て、6月頃本格的にこの作品の読解・解釈に着手した。 そのため代表者は昨年度8月末から9月上旬にかけて、予定通りベルリン州立図書館とトーマス・クリング・アーカイヴを訪問した。ベルリンでは代表的な文献資料を収集保存し、アーカイヴでは「吸い取り紙。ベイルマーメア」の肉筆草稿を確認できた。とりわけアーカイヴでは運営者のU・ランガンキ氏およびR・ディック氏の知己を得たこと、未出版の先行研究を発見できたことが今後の研究にとっても非常に心強い。 そして10月中旬、代表者は渡独時に収集した資料、アーカイヴ資料を参考にした読解の途中経過を、日本独文学会秋季研究発表会(2014年10月11~12日、口頭発表III、於京都府立大学)にて報告した。ここでの作品解釈は未だ荒削りではあったものの、発表後の質疑応答や、とりわけ言語学や演劇研究の方から示唆に富む指摘を得たことは大きな成果であった。 そして2月下旬、代表者はウィーン、ボン、ベルリン、ライプツィヒを訪問した。ウィーンとライプツィヒ滞在の目的は資料収集であったが(於オーストリア国立図書館、ドイツ図書館)、ボンとベルリンではそれまでの状況を報告しつつ、大学で知己のドイツ文学研究者の先生とクリングに関し重要な意見交換をすることが出来た。 以上、昨年度の成果は、更なる読解と理論的考察を経て、論文として27年度以降発表の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非常に面白い結果の出そうな詩の読解・解釈に着手できたことが何よりの成果であると考えている。その傍ら、二度の渡独による資料収集もおおむね順調に進み、またかねてより訪問を希望していたトーマス・クリング・アーカイヴにおいて草稿などの貴重な資料を確認できたこと、さらには運営者との知己を得るなど、昨年度に訪問を予定していた場所はほぼ全て訪れることが出来た。また一年のうちで二度訪問したベルリンであるが、二度目の訪問でさらに新資料を入手できたことも大きな収穫であった。短い期間でもクリングに関する二次文献資料が一層充実していたことには驚くとともに、本研究にとってベルリン州立図書館が大きな役割を果たすことも確信できた次第である。 また作品読解・解釈を進めて行く上では、ある程度の段階でさまざまな研究者との意見交換を行うことが欠かせないと思われるが、これもまた計画通り、日本独文学会秋季研究発表会における報告とそこでの質疑応答、さらには二度目の渡独時の際のドイツ人ゲルマニスト(ドイツ文学研究者)とも意見を交わすことができた。とりわけお二人の先生方からは、非常に示唆に富む指摘をいただくとともに、今後のクリング研究全体に向けたアドヴァイスもいただいた。 以上を通じた読解・解釈の作業によって、今後はこれもまた予定通り、論文の執筆に着手できる手応えを感じている。よって現在までの研究の達成度はおおむね順調(予定通り)であると言って差し支えないと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方法としては、主に三つの点を中心に行って行く予定である。 第一は、資料収集の継続とその読解である。資料の収集は今後も行うが、今後はベルリン州立図書館とともに、ライプツィヒのドイツ図書館とライプツィヒ大学図書館、さらにはマールバッハにあるドイツ文学アーカイヴを訪問し、文献の上でも研究の動向をしっかり見極めたいと考えている。二次文献の読解は、並行して行う詩の読解・解釈のために不可欠な作業である。 第二は新たな作品の読解・解釈の着手である。平成27年度から28年度にかけてもうひとつ、長編詩「出典:第一次世界大戦」(1999年)の読解に挑みたいと考えている。この「出典:第一次世界大戦」はクリングの円熟期である1990年代後半の代表作として知られるとともに、また成立年代からしても、すでに研究代表者が本研究にて着手ずみの「吸い取り紙。ベイルマーメア」(1993年)と本研究計画以前より扱ってきた連作詩「魔女たち」(2002年)のちょうど中間に位置していることから、それをもってようやくクリングの詩作全貌が輪郭を帯びてくることも期待できる。また読解・解釈の作業の過程では、前年度同様、日本独文学会などでの研究発表を予定している。 第三の課題は、上記にも触れた通り、昨年度から扱っている作品「吸い取り紙。ベイルマーメア」の読解・解釈の結果を<声と文字の交差地点を表象する詩作>というテーゼのもと、論文の形式でまとめ発表することである。ここでの主要な課題は詩の読解・解釈を明確に言語化することとともに、<文化的記憶/想起の文化とメディア論の関連>を方法論として追究する論理的考察である。その結果を以て、本年度より読解に着手する「出典:第一次世界大戦」についても、最終年度スムーズにその論文執筆を開始することができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
作年度2月末~3月にかけての出張について、クレジットカード支払を利用した関係上、その際の経費(旅費)の大半について処理が間に合わなかった。実質としては次年度使用額は0以下である。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度中に未処理の旅費として使用する。
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