研究課題/領域番号 |
26370393
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
林 志津江 北里大学, 一般教育部, 准教授 (30449300)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 朗読パフォーマンス / 言語の口頭性 |
研究実績の概要 |
初年度(平成26年度)はTh.・クリングの詩作について、文字テクスト上における口頭性の問題を、詩人円熟期の作品「吸い取り紙。べイルマーメア」(1993年)を中心に検討した。クリング作品においては文字テクスト上も徹頭徹尾、人間の身体を通して現前する肉声が言語として意識されている。以上を踏まえ当該年度(平成27年度)は、生前のクリングが精力的に行っていた朗読パフォーマンスの実例を、詩人の詩論テクストとつきあわせつつ考察を進めた。以上の研究が遂行可能となったのは、2015年(平成27年)3月に『焼き付けられたパフォーマンス』と題する、朗読等の音声データが4枚組CDの形で刊行されたことに起因している。 クリングの朗読パフォーマンスについて注目に値するのは、詩人が提起した「言語インスタレーション(Sprachinstallation)「記憶者(Memorizer)としての詩人」というコンセプトであろう。クリングは自身の詩作活動(朗読)を定義する上で、英語からの借用語概念「パフォーマンス」(Performance)に違和感を感じるようになったという。クリングは「パフォーマンス」の名で呼ばれる様々なアクティビティーと、自身の朗読を厳密に区別するのに、1985年ごろから「言語インスタレーション」という造語を用いるようになる。またクリングの朗読=言語インスタレーションとは、朗読という行為一般を指すというより、詩人自身によって現前する声=テクストを指すと考えられる。しかもその声=テクストは、「記憶者」たる詩人の肉体を通して発現する記憶の痕跡である。クリングの詩作品は、詩人の肉声を経てそのつど現前する行為としてのテクストと言え、以上は現在、表象文化研究の一手法として確立されつつある「記憶としてのテクスト」とみなすような構想とは一線を画す、詩人クリングの非常に独創的な一面を示していると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終的に完成させる予定の論文については、査読や学会誌等の事情もあり、発表までには至っていない。だが構想としては予定通りのスピードであり、今年度じゅうにひとつ論文を発表することはできるかと考えている。そのための資料(先行研究を含む)の発掘も順調に進んでおり、研究費も有効に使用することができている。 また昨年度は、本研究課題の対象である詩人クリングと非常に関連の深い、ドイツ語詩人マルセル・バイヤーのテクスト読解も一部進めることができ、本研究課題に関する洞察が予想外に深まったという実感がある。これら両者の作品については今後の継続課題のテーマに据える予定であり、今後の研究の展望が見えてことは大きな成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(平成28年度)は過去二年の研究成果の発表を実現すべく、主たる資料の収集は秋学期開始以前までに終え、論文の執筆により専念できればと考えている。 今年度前半の到達目標としては、初年度(平成26年度)と昨年度(平成27年度)の成果をつなぎ合わせるために、理論的考察をよりふくらませていきたい。そのためにも、先行研究や他の同時代詩人作品に目を通す作業をできれば年度前半までに終わらせたい。また本年度10月末には、昨年度、初年度と同様、日本独文学会秋季研究発表会での発表を予定しているが、この場での発表は研究動向のフィードバックを得るのに最適な機会となっているが、今年度の発表では本研究課題の集大成となるべく、論文上で包括的なテーゼを提示するべく尽力したい。 また上記「現在までの進捗状況(理由」の項でも触れたが、本年度は本研究課題の最終年度でもあり、今後の研究の推進方策としては、来年度以降の本研究課題継続をも念頭に入れる必要がある。そのため現在計画しているのは、クリングとも親交の深かったドイツ語詩人マルセル・バイアーの近作『黒墨』(Graphit, 2015)のうち、とりわけクリングと強く関連していると思われる作品について、読解と考察を進行させることである。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年に実施した国外出張のうち、前倒し請求を行い予定していた2度目の国外出張(平成28年1月20日~平成28年1月30日)について、宿泊費などの経費が大幅に削減され、当初の予算計画より少ない費用で出張することができたために残額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年8月に実施される予定の「アジアゲルマニスト会議(Asiatische Germanistentagung 2016 in Seoul」(韓国・ソウル市)に参加(一般発表、講演)し、国外出張旅費として使用する予定である。
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