クリングの文芸活動を視覚的・聴覚的知覚のメカニズム、さらにはメディアの特性と言語理解との関わり方という観点から追究するのが本研究の目的であったが、こうした問題性は、詩人による朗読CDや音楽パフォーマンスといった文字テクストの範疇を越える作品をいかに研究対象とし扱うか、形式の刷新に研究がどう対峙しうるのか、文学研究の新たな可能性に関する考察ともなる。クリングの詩作において詩は個別の所与の作品としてではなく、常に詩人の声やアクションを媒介し現前する。詩の受容に際し詩人その人が不可分の存在であるという本研究の知見は、文字テクストの分析という文献学的研究の伝統との対峙でもある。
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