研究課題/領域番号 |
26370394
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
亀井 伸治 中央大学, 経済学部, 准教授 (10329039)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ドイツ文学 / ゴシック小説 / 恐怖小説 / ロマン主義 / ホフマン / 啓蒙主義 |
研究実績の概要 |
すでにゲッティンゲン大学図書館から入手してあったアルノルトの小説『血の染みのある肖像画』Das Bildnis mit den Blutflecken (1800) の日本語への翻訳は、平成26年度中にほぼ終えて草稿を作成した。同じ1800年に出版のアルノルト作品『分身のいるウルスラ会修道女』Die doppelte Ursulinernonne のテクストもハレ大学図書館から入手し、ひと通り読み終えた。そしてその上で、啓蒙主義時代の末期という時代背景、ゴシック小説的特徴、探偵小説との構造比較などの観点からこれら二作品を分析して論文に纏め、その原稿を平成27年3月に中央大学人文科学研究所に提出した。 また、1801年のアルノルト作品『吸血鬼』Der Vampyr との関連において〈恐怖小説〉の主要な題材のひとつである〈吸血鬼〉のモティーフが、十八世紀から十九世紀にかけてドイツ文学でどのように展開したを調査した。ただし、その調査過程で、アルノルトの『吸血鬼』のテクストは, 残念ながら現存が確認できない状況であることが判明した(テクストが散逸したと推測される)。そこで、今回の研究でアルノルトとの比較考察を計画していたドイツ・ロマン主義の作家 E. T. A. ホフマンの短篇「ヴァンピリスムス」Vanpirismus(1821)を『吸血鬼』に代わる考察対象として採り上げることにした。これは、アルノルトの『吸血鬼』と共に、ドイツの吸血鬼小説ジャンルの最初期の重要作品であり、アルノルト作品とも密接に連関しているからである。これら調査と考察の成果として「阿魏(アサフェティダ)の匙加減―E・T・A・ホフマンの吸血鬼譚「ヴァンピリスムス」(1821)」と題する論文を作成し、岩波書店の隔月発行の学術雑誌『文学』平成26年7/8月号「特集 怪談の領分」)に寄稿した。ここでは、上記アルノルト作品にも言及しつつ、ポストモダン哲学における「踏み越え」の概念を援用して吸血鬼のモティーフを分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、今回の研究に必要となる各種資料(一次文献として、アルノルトのテクストや彼と同時代の他作家のテクスト、そして二次文献として、ドイツの恐怖小説およびそれを取り巻く社会的・文化的背景に関する新しい研究論文)を幾つも入手した。そして、それらの一部を用いての研究成果として「研究実績の概要」で述べた二つの論文原稿(ひとつはすでに岩波書店の雑誌『文学』に掲載され、ひとつは「中央大学人文科学研究所紀要」に掲載予定)を完成することができた。 さらに、平成27年1月には、中央大学の国際センターを通じて、ゴシック小説および恐怖小説の研究者であり、当該ジャンルのドイツの専門出版社「ユードルフォ・プレス」 Udolpho Press を主催するノルベルト・ベッシュ博士から、専門としている研究の内容についての問い合わせがあったので、現在、アルノルトの研究と日本語への翻訳を進めていることを伝えた。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」にも記したように、『血の染みのある肖像画』と『分身のいるウルスラ会修道女』をめぐる論文の原稿は作成を終えて中央大学人文科学研究所に提出済みである。「1800年の幻想ミステリ」という標題のこの論考は、平成27年9月発行予定の「中央大学人文科学研究所紀要」に掲載されるはずである。なお『分身のいるウルスラ会修道女』のテクストも『血の染みのある肖像画』と同様に、全訳に向けた翻訳に取りかかっている。 平成27年7月には、二松学舎大学で開催予定の日本比較文学会東京支部の例会で、アルノルトの〈盗賊小説〉である『モールの伯爵たち』Die Grafen von Moor(1802)と『黒いヨーナス』Der schwarze Jonas(1805)を同時代のドイツにおけるサド侯爵作品の受容などとの関係で考察した研究発表を行うことになっている。発表後は、その内容を再吟味して論文化するつもりである。 また、研究内容についてドイツより問い合わせのあったノルベルト・ベッシュ博士とも、今後は研究について有益な情報交換を続けられればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究資料として平成26年度中の平成27年2月~3月に注文していた文献の一部について、それらのカード決済による支払いが平成27年4月以降、すなわち次年度にずれ込んだため。 図版を取り込むためのスキャナーなどの機器を平成26年度中に購入予定であったが、これを平成27年度に購入することにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度中に注文し、納品と支払いが平成27年度になった研究資料の支払い残額に充当すると共に、主として、さらなる文学テクストや参考図書など文献の購入に使用する。 研究資料のコピー代や、これまでにコピーの形で蒐集した資料を簡易製本する費用、そして、平成26年度に購入しなかったスキャナーなどの機器の購入費用に充てる。また、内外の研究者との通信費や資料整理や原稿作成などに必要な事務用品費として用いる。
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