十八世紀末ドイツの著作家イグナーツ・フェルディナント・アルノルト Ignaz Ferdinand Arnold(1774-1812)は、ドイツにおける〈ゴシック小説〉というべき当時の人気ジャンル〈恐怖小説〉の人気作家として夥しい作品を書いた。彼の諸作には、合理と非合理がせめぎ合う時代の特質が端的に表出している。 研究の過程としては、まず、1801年のアルノルト作品『吸血鬼』との関連において、〈恐怖小説〉の主要な題材のひとつである〈吸血鬼〉のドイツ文学における展開の調査から始めた。その成果として、平成26年度に、ロマン主義文学への影響という観点から、このジャンルにおける重要作品 E. T. A. ホフマンの短篇「ヴァンピリスムス」(1821)を巡る論文を、岩波書店の隔月発行の学術雑誌『文学』2014年7/8月号)に寄稿した。 平成27年度には、アルノルトが 1800年に出版した怪奇的な二作品『血の染みのある肖像画』と『分身のいるウルスラ会修道女』を対象とする論考を執筆し、これを「1800年の幻想ミステリ」と題して、中央大学人文科学研究所による『人文研紀要』第82号に発表した(2015年10月30日発行)。また、同年7月には、二松学舎大学で開催の日本比較文学会東京支部例会において、アルノルトが、フリードリヒ・シラーの戯曲『群盗』(1781)を脚色して通俗小説化した 『モール伯爵家』(1802)と、実在した盗賊の告白という形式による犯罪実録小説『黒いヨーナス』(1805)を採り上げ、その特異な〈盗賊小説〉としての性格を、当時の社会的背景、刑法との関係、サド侯爵作品との比較などから考察した発表も行った。 最終年度である平成28年度には、上記発表の原稿を元に作成した論文「過激な盗賊たち」を、中央大学人文科学研究所の「人文研紀要」第83号(2016年9月30日発行)に寄稿した。
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