十八世紀末にエアフルトのオルガニストで著述家としても活躍したイグナーツ・フェルディナント・アルノルト(1774-1812)は、音楽的著作の他に夥しい数の〈恐怖小説〉を書いた。〈恐怖小説〉とは、ドイツにおけるゴシック小説と言うべき当時の流行ジャンルであり、アルノルトはその人気作家のひとりとなっていた。そこには、合理と非合理がせめぎ合う十八世紀の特質が端的に表出している。本研究では、彼の小説の中から超自然や盗賊などを題材にした幾つかの代表的作品を採り上げ、ロマン主義への影響も含めて考察した。その成果は、英米のゴシック小説に比べて研究が遅れているドイツのゴシック小説の解明に寄与するものと信じる。
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