最終年度は、前年度までに終えることのできなかった研究環境の整備と研究文献の収集および分析を進めた(残念ながら研究調査は物理的な都合がつかず断念せざるを得なかったが)。また当初計画において記したとおり、研究成果のとりまとめ作業を行なった。その成果は、2018年5月にキューバ文学の研究書『島の「重さ」をめぐってーーキューバの文学を読む』(松籟社刊)においてほぼまとめられている。この研究書は、本研究課題を進めながら書いた論文、学会での口頭発表原稿などを含めた合計9本の論文に、新たに書き下ろした序論を付け加えたものである。同書をめぐって本科研費を利用して合評会を開催し(2018年7月)、当該分野の研究者から多くの批判およびコメントを頂戴した。また、研究代表者が所属する研究会においても同書の合評会を開催してもらい、隣接分野の研究者からの多くの批判やコメントを拝聴した。研究書の刊行と合評会の開催を通じ、本研究課題の意義を多くの研究者と共有することができたと考えている。研究課題をめぐる具体的な研究成果として、スペイン語圏カリブ地域(キューバ、プエルト・リコ)における共同体意識は、宗主国の交代によって大きく変容を遂げていることを確かめた。冷戦終結とともに支配的文化の喪失を経験したキューバにおいては様々なタイプの「ノスタルジー」が現れていることを確認した(この点については、具体的に小説を日本語に翻訳紹介し、読者を獲得することができた)。またプエルト・リコは20世紀全体を米国文化に支配され、主権共同体としての地位を得られなかったが、そのことが国民文学形成にどのように反映されているのかをいくつかの作品から分析・検討した。また、両島ともに米国への移住や亡命による離散が進行中で、このことは執筆言語においても変化を促し、英語創作や自己翻訳の興味深い事例が見られることが確認された。
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