研究課題/領域番号 |
26370397
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
濱中 春 法政大学, 社会学部, 准教授 (00294356)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リヒテンベルク / 気象学史 / ドイツ / 18世紀 / 科学史 / 言語史 |
研究実績の概要 |
26年度は、18・19世紀を中心とした気象学史や自然科学史、知の表象にかんする二次文献と、1800年前後にドイツ語圏で刊行された気象学にかんする一次資料を収集し、内容を把握した。それを通して、この時代の気象学において大気現象の表象化の方法としては、「表」という形式が主流であり、天気記号やグラフ、等温線の利用は萌芽的な段階にとどまることがわかった。 並行してリヒテンベルクと気象学というテーマについても研究を進めた。18世紀末に歴史上、初めて国際的な気象観測網を構築したマンハイム気象学会とリヒテンベルクとの関係はこれまでほとんど研究されていないことが明らかになったため、まず、リヒテンベルクの書簡などを手がかりとして、両者の関係の全容を再構成した。その結果、リヒテンベルクが、1780年から81年にかけての時期を境に、マンハイム気象学会の活動から距離を置くようになったことが明らかになった。 この時期はリヒテンベルクが、音声と文字との一致を目指す同時代の正書法改革論への批判を強め始めた時期であり、マンハイム気象学会の中心人物であるヨーハン・ヤーコプ・ヘマーはまさにそのような正書法改革論の代表者の一人であったことから、気象観測網に対するリヒテンベルクの態度の変化には、科学の言語についてのリヒテンベルクの問題意識がかかわっていると考えられる。つまり、マンハイム気象学会の活動は、同一時刻に、標準化された器具を用いて、学会が選んだ特定の大気現象を観測し、統一的な単位や記号を用いて記録するというものであるが、これは正書法改革と同様に、気象を分節化するための新たな標準言語を創出する試みといえる。それに対して、科学の言語の変革に慎重で、同時代の気象学を未成熟で発展途上の学問とみなしていたリヒテンベルクは、大気現象の性急な分節化やその標準化を容易に受け入れることはできなかったのだと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
18世紀末から19世紀初頭にかけてのドイツ語圏における気象学史を見直し、気象学が近代科学として成立しつつあった周辺で、それを相対化する位置にあった言説はどのような内実を持っていたのかという問題設定に対して、具体的な考察対象の一人であるリヒテンベルクの事例を通してその一端を明らかにすることができた。 またその際に気象現象が言語や図像によってどのように表象されたのかという問題についても、18世紀の気象学における表という形式の重要性や、天気記号、グラフや等温線の利用などの状況を通して、ある程度、実態を把握することができた。 そして、これらの考察の文脈を形成する1800年前後の気象学の実態や、現代におけるこの時代の気象学史の研究状況も、ある程度、把握することができた。
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今後の研究の推進方策 |
27年度以降も、引き続き18・19世紀の気象学史や科学史、知の表象にかんする一次・二次資料の収集と内容把握を進める。とくに26年度に確認することのできた表、グラフ、天気記号、等温線といった大気現象の表象化の手段について、さらに先行研究の調査を行う。 並行して、27年度はアルニム、28年度はゲーテを中心に事例研究を進める予定だが、アルニムについては、気象学プロジェクトの手稿の全体は現時点ではまだ刊行されていないため、活字化されている部分を利用して研究を始めるとともに、アルニムの自然科学論文のうちで気象学に関わるものを精査する。また、文学作品に関しても、自然研究や気象学との関連性を探り、1800年頃に自然研究から詩作に転じたアルニムにおける気象学の意味を考察する。 また、27・28年度とも、ドイツの図書館においても資料収集を行い、29年度は研究全体の総括や補足を行うことを予定している。
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