研究課題/領域番号 |
26370401
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
クラヴィッター アルネ 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90444778)
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研究分担者 |
山本 浩司 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (80267442)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / 国際情報交換 / 20世紀ドイツ文学 / クロノトポス / ヘテロトポス / 文学史 / 東ドイツ文学 / 検閲 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトの目的は、クロノトポスとヘテロトポスという時間と空間を掛け合わせた独自な概念を基礎に置いて、東ドイツ文学史を記述することに置かれている。この新たな文学史では目的論を放棄し、発展や衰退などを想定しない。バフチンのクロノトポス概念を援用するエメリヒ、ボッセ、オストハイマーらこれまで蓄積された研究成果を踏まえながら、フーコーのヘテロトポス概念を取り込むことで、概念を拡大していく。東ドイツ文学のなかでも、1980年代に独自の発達を遂げたいわゆる反体制地下出版(サミズダート)文学に焦点を当て、この地下文学が文学史の上でどのように位置づけることができるかを検討している。 初年度は当初の研究計画どおりに進行した。まずバフチンのクロノトポス概念に対して、上記の先行研究と対決しながら、詳細な検討を加えた。クロノトポス文学史記述の理論的根底を確立することに成功した。関係する二次文献を読みあさり、この研究テーマを専門とするドイツ語圏のドイツ文学研究者数名と意見交換をおこなった。そのうえで、東ドイツの重要なアンダーグラウンド雑誌の一つを編集し、現在は東ドイツアンダーグラウンド文学アーカイブの所長を務めているウーヴェ・ヴァルンケとコンタクトを持ち、当事者しか知らない貴重な情報を得ることができた。 2014年7月末から8月にかけてはドイツに研究滞在した。ベルリンの国立図書館および文学研究センターを訪れて、東ドイツ文学の一次文献と最新の研究書を詳細に読み、資料収集に努めた。 この研究成果をもとにして、帰国後(9月から2015年2月にかけて)には、本研究の方法的手がかりをつかむことができた。その際、ヘテロトピー概念により集中的に取り組む結果となったが、これは本プロジェクトの先行研究にない新しさがその点に認められるからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度の課題は、クロノトポスとヘテロトポスという二つの時空間概念の東ドイツ文学史記述への応用可能性を検討することに置かれていた。比較的新しい両概念を概念史の上で正確に位置づけるために、まずは両概念とユートピアなどの近接概念との差別化を先行研究の批判的な検討を通じて図った。その上で、東ドイツ文学史理解にとって両概念がどこまで有効であるかを見比べていった。国内外の専門家たちとのディスカッションによって、この所期の目的は十分に果たせたということができる。 もう一つの成果としては、国内外の専門家とコンタクトをとるなかで、最終年度に計画している国際シンポジウム実施のための人的ネットワークの構築に成功したことがあげられる。2015年秋の日本独文学会研究発表会に向けて、現在国内から4名が参加し、ドイツからロストック大学のヘルビッヒ教授を招聘する計画が進行中であり、この礎の上に、2016年秋をめどにして計画を進めているさらに規模の大きな国際学会を実現できると考えている。 集中的なアーカイブ調査によって、地下出版作品を中心に80年代の東ドイツ文学の全体像がかなり明確につかめるようになってきたことも大きな成果としてあげられる。地下出版雑誌に掲載された作品のなかにはまだ渉猟しきれていないものもあるが、2015年度も継続して資料収集に力を入れる予定であるので、この点では研究はおおむね順調に進展しているということができるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は理論的な基礎づけに集中することになったが、これには4月でめどがつく。本研究の第二年度は、図書館での一次資料調査が中心に置かれることになる。そのためにベルリン、ハレ、ライプチヒの図書館、資料館を訪問して、自費出版の雑誌など、1980年代にアンダーグラウンド作家たちが、国家による検閲のために公表することのできなかったテキストを発表することのできた媒体を徹底的に調べ上げる予定である。これには莫大な時間が必要となるので、7月、8月にドイツに出張をする。9月以降はそれら資料の精査にあてる。 『あれかこれか/検札あるいは(Entwerter/Oder)』『アリアドネファブリーク』『リアーネ』『ブレーゲン』という、実験的な抒情詩のテキストがたくさん発表されている4誌に集中して取り組むつもりである。一義的な意味に還元されない、二重、三重の意味を孕むこれらのテキストは、政治的にも詩学的にもさまざまな含意をもつ特別な文学史的なコンステレーションをなしている。二つ目のフォーカスをなすのは、これら雑誌に発表された綱領的なテキストである。それらのなかには、東ドイツの公式の文化政策には飽き足らず、ポスト構造主義的な理論に強く影響を受けて美学的な新しい方向性の芽生えを見いだすことができる。興味深いのは、当時の東ドイツの大学では教えられていなかったようなフランス発の文学理論との集中的な対決がすでに東ドイツには見られていたということである。 これまでの研究成果を世に問うことも同時に進める。具体的には5月にケムニッツ大学で「美的な固有時間」というドイツの大学研究プロジェクトと連携して研究発表を行う。また10月の日本独文学会研究発表会でシンポジウムを主催する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内の購入を予定していた重要文献の発行が予定より大幅に遅れて、年度内購入を断念したため。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度発行の遅れから購入を断念した重要文献の購入に充当する。
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